「……目立つ?」
「ん?」
「あの2人がそれなりに目立つって言った?」
ロムシティにいる時点で目をつけられていたとしたら何かしらの用件があるのだろうとは想定していた。では、ナンパではないとしたら他に何の目的があるのか。会話を適当に流しつつ、2人の様子を確認していたカルアは藤の男の言葉に引っ掛かりを覚えて足を止める。それに気付いた星と月も足を止め、カルアの名前を呼んで首を傾げる。見知らぬ男にぐいぐいと声をかけられることに不安と戸惑いの色を浮かべている2人の顔をまじまじと見たカルアは思考する。
確かに、この2人は可愛らしく顔が整っており人目を惹くかもしれない。今日は早起きした分カルアがヘアアレンジやらなんやらといじったので尚更可愛らしく見える。けれど、なんの遺伝か人の姿をしたポケモンたちは基本的に整った顔立ちをしているのだ。髪色だって水色と桃色と種族を考えれば特別目立った点はない。強いていえば星の白い瞳には星が浮かび、月の黒い瞳にはきらきらとした粒子を浮かべているが……それもポケモンであれば許容の範囲内であろう。では、藤の男は2人をどこを目立つと言ったのか。2人から目を逸らし、藤の男と紺碧の男の様子を窺う。そして、男2人の後ろに続く道。これから進む先を見て、カルアは察する。
「カルアちゃん?」
「…………る、よ」
「聞こえなかったけど、なんてい……はあ?!」
「逃げるよ!」
カルアは高校生になるまでの間、自分でポケモンを捕まえたことがなかった。ポケモントレーナーになるつもりがないので当然のこと。けれど、ポケモンと無縁な人生というわけでもない。姉2人は幼いうちから旅に出て、イッシュ地方でもそれなりに名の知られたポケモントレーナーである。カルア以上に自由奔放で教育とか躾とか全くしない姉2人に代わってポケモンたちを叱ることをするくらいには身近な存在である。だからカルアは知っていた。世の中には善人なポケモントレーナーばかりではないことを。珍しいポケモンを収集しようとするコレクターもいれば、ポケモンを利用して悪事を働く輩もいるということを。だから星と月には自分が宇宙から来たポケモンであることを言わないように釘を刺した。2人が宇宙で出会ったという宇宙飛行士からも聞いていたのだろう、それに対する理解は良かった。
そこまで理解していたからこそ気付けたというべきか。警戒していたからこそ察するのに遅れたと言うべきか。両端を陣取っていたのは3人を逃がさないようにするだけでなく、鬱蒼とした森にさり気なく誘導する目的があったらしい。カルアは舌打ちをしてアウトドアワゴンを投げつける。男たちはこのような荒事に慣れているようでカルアの咄嗟の行動にも難なく対応する。投げつけられたアウトドアワゴンは狙い通り男たちを轢くことなく、中身をばら撒いて転がる。旅に必要な用具を全て放棄するのは痛手だが、カルアは星と月の手を引いて走り出す。
「夢路さん、仕事中に遊ぶなよ」
「あれ、意外な反応だなあ。星噛くんは狩りとか好きじゃない?」
「時と場合による」
足元に転がってきたピッピ人形を片手で掴み、星噛くんと呼ばれた紺碧の男は溜め息を吐く。あの容姿からして男遊びに慣れているもしくは声をかけられ慣れているとみて、あえてナンパを装ったというのに余計なことを。恨みがましい声で夢路さんと名前を呼ぶが、へらりと笑みを浮かべるだけである。この男に遊び癖があるのは今に始まったことではないと再度溜め息を吐き、尻ポケットに入れていたインカムを耳にかける。
「あーあー、こちら星噛。大将聞こえてるー? 聞こえているどころか見えてるなら何よりだ。いや、逃げられたのは俺じゃなくて夢路さんが原因で……あ、はい。すぐ追いかけます」
「おや、星噛くんのご主人様はご立腹かな」
「夕飯の仕込みがあるのだから余計な手間を増やすなってよ」
「あはは、じゃあ早く捕まえようか」
「ういー」
身体を解すように腕や足を伸ばす。ふーっと息を吐き出し、3人が逃げた方に目を向ける。誘いこもうとしていた鬱蒼とした森の方には行ってくれなかったので発光するポケモンを目印に追いかけることはできないだろう。インカムでのやりとりを終えた後から聞こえるようになった銃声を辿れば追い付くことも容易だろう。星噛と夢路はゆったりとした足取りで追い込みを始める。