「うん。姉のポケモンを預かっていた時期があるから慣れてはいるけど私自身はトレーナーじゃないよ。飽き性だから命と人生を背負うとか無理でさー」
「……え、じゃあ野宿するつもりなの? 人間とポケモンが共存するために制度が整えられたセイショウ地方とはいえ、結構危ないよ」
「一応お古のテントとか持ってきているんだけど私も見知らぬ土地で毎日キャンプとか自信ないからね。疲れたときはビジネスホテルに、元気なときはカラオケとかネカフェにでも泊まろうかなと思ってるんだあ」
「それでもまあまあハードスケジュールだな」
「毎日湯船に浸かれないことが唯一の悩みなんだよね。すっぴんでは出歩きたくないしさあ」
「あー、確かに。カルアってがっつり化粧してるものね。手入れを怠ったらすぐに荒れそう」
「少なくとも下地とファンデは良いやつ使った方がいいね。これとかおすすめ」
言い合いに飽きた風月と彗は戻ってくるなりカルアの隣に座る。そして化粧の話に花が咲く。カルアと同じくらい化粧をしっかりとしている風月だけでなく彗まで食いつくとは予想外であった。しかも、当たり前のように鞄から化粧品を出した。最初は風月の荷物でも持ってあげているのかと思ったが「1つ注文したらリフィルまでついてきて持て余してたからあげるよ」と。風月のではなく彗の物である発言をする。まあ、最近は男の子も化粧する時代だから持ち歩いていても不思議ではないかと納得する。カルアとしてはメンズ用ではなくレディース用の化粧品を使っていることの方が気になった。肌は荒れないのかと彗の顔を凝視する。突き刺さるカルアの視線に首を傾げる彗の肌にはニキビもシミも何もない。羨ましさに唇を尖らせたカルアの考えを察した風月は「本当、腹立つわよね」と。カルアに賛同し、じとーと彗を睨む。
何この状況。誰かどうにかして。2人の視線から顔を逸らし、彗は助けを求める。興味の欠片もない化粧の話に花が咲いている間、いつの間にか席を外していた修景と麗月が彗の助けを聞き届けたと言わんばかりのタイミングで3人の間に割って入る。
「なあなあ、あっちにセイショウ地方のマップが置いてあったぞ! ここにホテルとか温泉地書き込んでおいてやるよ!」
「俺は木の実とか食べられる野草とか採れる場所に印つけておくね。食費に困ったら行くといいよ」
5人の中心に広げられた配布用のマップに修景と麗月は書き込み始める。日頃どういう生活を送っているのかよく分かる内容。貧富の差が露わになっていると笑いながら見ていると、風月も「じゃあ私は観光地でも書いておくわ」と。穴場から名所まで書きながら説明をする。この流れは彗も何か教えてくれるのだろうかとチラ見すると、マップの隅に落書きをしていた。
「……彗くん。それ、何?」
「俺」
「人の顔には見えないんだけど」
「二が絵なんて器用なもの描けるわけないじゃん」
「あー、原型なのね」
ぐるぐるの目をした星型。これはいったい何のポケモンだろうとカルアは悩む。少なくともイッシュ地方にはいなさそうだと考えたところで思考を放棄する。ボールペンを置いてどや顔をしているところ、会心のできなのだろう。カルアは喉まで出かかっていた彗くんって絵心ないねという言葉を呑み込む。カルアが黙ったところで修景が爆笑して指摘するので意味はなかったが。
マップに書き込みを始めて数時間。これだけの時間を費やせるのは途中で話しが脱線して馬鹿騒ぎしていたからだろう。そして、完成したマップは4人分の情報がたっぷり載っていた。お手製の旅行情報誌だと頬を緩めながらカルアは思う。
「ナビはスマホ使わないと道が分かんないね、これ」
どっと起きた笑い声に紛れてセイショウ地方の到着を知らせる船内放送が流れる。5人は顔を見合わせてから再び甲板に出る。見えてきたのはセイショウ地方で1番栄えている港を有するミマイシティ。旅行者を歓迎するかのようにみずポケモンたちは海から飛び出していた。海のない街で生まれ育ったカルアは声をあげて見慣れぬ光景に喜ぶ。無邪気なカルアの反応に4人はクスクスと小さく笑い、声を揃える。
「ようこそ、セイショウ地方へ!」