月が浮かび始める頃に活動し始めるポケモンたちが眠りにつこうとし、太陽が浮かぶと共に覚醒するポケモンたちがゆるやかに夢から目覚めようとする。月と太陽が入れ替ろうとして空に何も浮かんでいない静かな時間。

「っ、はあ! 山道きっつい……!」

 カルアは全力疾走をしていた。
 でこぼこの山道にアウトドアワゴンのキャスターがひっかかっては転びかけ、膝をつく。陽の光も月明かりもない暗い道に迷い、足を止めがてらリュックサックを背負い直す。そして再び走り出す。
 山道の全力疾走を始めてどれほど経ったか。呼吸は荒く、夏の空気を取り込む度に胸が苦しくなる。脇腹も痛み始め、何より足が棒のように疲れてきた。けれど、空の様子からさほど時は経っていないことが分かる。

「こんなことなら荷物を宿に置いていけばよかったあ!」

 温泉で身を解し、柔らかな布団に埋もれて眠りについた。海を横断する長距離移動は初めてで身体はどっと疲れていたが、初めての土地に興奮して頭は冴えていた。明日も朝早くから動き始めるのだからと固く目を瞑り、ようやく寝付いたと思いきや空が白み始めるよりも先に目が覚めた。さすがにこれは早すぎるだろうと二度寝を試みるものの寝つきは悪い。これはもう寝れないなと二度寝を諦め、部屋に備え付けられたお茶を飲んで外の景色をぼんやりと眺めていた。ふと視線を空に向けたとき、きらりと光る一線が目に留まった。流れ星なんて縁起がいい! と喜んでいると、その流れ星はミマイシティの外れにある山へ落ちていった。そんな気がした。
 船の旅で彗から宇宙の話を聞いていたこともあり、カルアの胸は高鳴った。追いかけたい衝動に駆られる。残りのお茶を一気に飲み干し、身支度をする。近所のコンビニに行くときでもフルメイクをするカルアが眉毛を書くことすら忘れ、荷物を持って飛び出した。受付でぐーたらとだらけていたくるみがいたので一声かけたら「じゃあ適当にチェックアウトしておきますねぇ。お金に困ったらいつでもきていいですよぉ」と。古民家宿の経営は大丈夫なのだろうかと不安になるような緩い返事を受けた。
 こうして山道を走ることになったカルアはほんの少し後悔をしていた。荷物を古民家宿に置いていき、落ちた流れ星を確認したら戻ってチェックアウトをすればよかった!と。

「この辺だったと思うんだけどなあ」

 足を止め、頬から顎へと伝う汗を拭う。目的のものを探すために辺りを見渡すがこれといって目立ったものは見当たらない。落ちた気がするだけでやはり気のせいだったのだろうかと肩を落とす。夜明けに見知らぬ土地を全力疾走するなんて青春ドラマみたいなことをできたからよしとしよう。
 乱れた息を整えてから来た道を戻ろうとしたとき、2人分の声がカルアの耳に届いた。

「おしり痛いし頭もぶつけたしさいあくー」
「落ちた衝撃でぺっちゃんこになるよりましじゃない?」
「それはそうだけど、そうだとしてもだよ!」
「わっがままー」

 草根を掻き分け、声のする方へ進む。隠れるように身体を小さくして覗き込む。カルアの目は声の主であろう2人の少女を捉えた。
 唇を尖らせて不満を訴える水色の少女。肩下まであるふわふわした髪を揺らしながら身体を伸ばしていた。その隣で桃色の少女はぷすぷすと煙を出す台形の機械を確認していた。カルアの目には2人の少女たちはきらきらとした粒子を身に纏い、薄らと発光しているように見えた。

「うん。これはもうダメだ」
「ありゃま、それは残念。これで後戻りできなくなったねぇ」
「無事だとしてもこれで宇宙に戻るのは無理だったけどね。脱出ポッドは飛ぶためのものじゃないし」
「分けてくれた宇宙飛行士のおにーさんたちありがとーございました」

 水色の少女は使い物にならなくなった機械に向けて両手を合わせる。数秒して拝むのをやめ、桃色の少女とともに周囲を見渡す。その間に交わしている会話に宇宙に戻るだの脱出ポッドをくれた宇宙飛行士だのという言葉が出てくる。
 山に落ちた流れ星の正体は宇宙人を乗せた脱出ポッドであることに気付き、興奮のあまり声を上げそうになる。両手で口を覆い、息を潜めて後退する。


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