冬空の下、熱帯びる

  恋石は人前で絶対に眠ることをしない。そして、眠っていたとしても人の気配が近付けばすぐに目覚める。それくらい警戒心が強く、そして眠りが浅い。そんな恋石が安心して熟睡できる場所が大海原の腕の中であった。
温もりに安心する。匂いに落ち着く。この人は自分を裏切らないと信頼できる。あげようと思えばその他にも理由はいくらでもある。が、端的に言えば恋人には素直に甘えたい。この一言に尽きる。

「んんっ」

 とはいえ、もともとショートスリーパーなので要する睡眠時間が短い。就寝したのが日付を越えた後だとしても、3時間も経てば自然と目が覚める。特に冬は日が昇るに合わせて気温が下がり、布団で身を包んでいたとしても寒さが勝るので何時に就寝しようと空が白む頃に起きてしまう。
 普段なら目を覚ましてすぐにシャワーを浴び、長さも量もあるたっぷりとした薄緑の髪を乾かしたらウィッグの中に隠して化粧をすると時間のかかる身支度を始める。けれど、今日は腰の重みとか特有の倦怠感とかもろもろあってすぐに動く気にはなれない。

「ぬくい」
「……ん」
「あ、ごめん」
「んー……」

 もぞりと寝返りをうって大海原にひっつく。素肌同士だからか、布団よりも温かく感じて心地が良い。もう少し密着したくて擦り寄っていると、くすぐったさから大海原がぴくりと身体を震わす。早く起きすぎたことを自覚している恋石は気持ち良さそうに眠っている大海原を起こしてしまうのは申し訳ないと、ぴたりと止まる。少しして、再び規則正しい寝息が聞こえてきた。
 名残惜しいけれど寝かせるためにも離れておこうかなと身体を起こす。さて、どうしよう。夕飯はたくさん食べたけれど、その分夜が激しかったからお腹が空いた。食材何かあったっけ。などと考えながら布団から出ようとする。が、立ち上がりかけたところで手首を引っ張られ、大海原の腕の中に戻されたのでできなかった。

「きゃっ」
「…………ふふっ」
「もー……最初から起きてたの?」
「恋石ちゃんが離れたあたりからだよ」
「本当にー?」

 あくびを1つして、眠たげに瞼をこすっているあたり本当のことなのだろう。じゃあやっぱり起こしてしまったのかと申し訳なくなり、しゅんと眉を下げる。落ち込む様子を見た大海原は小さく笑って額や目尻に口付けをする。恋石は驚きの声を小さくあげ、咄嗟に目をきゅうっと瞑る。抵抗する素振りも止めようとする様子もないことを確認した大海原はそのまま瞼や頬にも唇を落とす。真っ赤に染まった首筋にも数度してから、額をこつりと合わせて大海原は満足気に笑う。

「恋石ちゃん、おはよう」
「……おはよう。大海原さん」

 怒涛の攻撃が止んだところで深く息を吐く。どうやら緊張しすぎて息を止めていたらしい。昨晩はこれ以上のことをしたというのに、なんで慣れないんだろう。赤くなった顔を隠すように大海原の肩に埋め、小さく唸る。そしてやられっぱなしなのは癪なので、そのままかぷりと肩に噛みつく。本気で噛んだりなんてしたら皮膚を食いちぎりかねないので、薄らと痕が残る程度の甘噛みだ。

「早起きさんだね」
「いつもこのくらいの時間に起きてるからね」
「昨日寝るの遅かったのに?」
「寝た時間はあまり関係ないかなあ。でも、大海原さんはまだ眠いんでしょう?」

 もう少し眠っていていいよと重たげな瞼を撫でる。恋石の指摘通り、大海原はまだ眠気が残っていた。とんとんとゆったりとしたリズムで背中を叩かれてしまえばすんなりと寝入ってしまいそうなほど。けれど、先程起き上がろうとしていた恋石の様子からしてお腹が空いているのだろうことが察せる。眠気に誘われてそのまま二度寝したい気持ちとせっかくだから朝ご飯も一緒に食べたい気持ちに揺れる。
 その間も恋石の腰にしっかりと腕を回して離す様子がない。なんだか大きな子どもみたいだと可愛らしく見えてくる。年上なのにこういうところがたまらなく愛しいなあと思いながら、恋石は先程唯一触れられなかった唇にお返しの口付けをする。大海原が驚いた表情を浮かべるのも束の間。すぐにふにゃふにゃと緩い笑顔を浮かべて嬉しそうにする。

「大海原さん、わたしはお腹が空きました」
「さっきから小さくお腹鳴ってるもんね」
「そこは聞こえないふりをする! で、大海原さんは眠いでしょう?」
「うん。まだちょっと眠い……」
「だから眠気覚ましのお散歩しよ?」

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