ちょこれぇと味のわがまま

 周囲が思っている以上に初春は思慮深い。
 双子として生まれたことで起こり得る後継者争いを避けるべく、世間には双子ではなく歳離れた姉弟であると公表することを提案したのは他の誰でもない初春からであった。片手で歳を数えられるくらいの年月しか生きていない幼子の発言とは思えない。とても賢い男児。最初は両親を含めて誰しもが春式家を継ぐのは初春であると考えていた。しかし、当の本人は初陽こそが春式家の跡継ぎに相応しいと主張していた。思いにもよらぬ話に初陽は柄ではないと断っていたが、初春は継承者に授けられる光の石を初陽の口の中に放り込み強制的に進化をさせるというあまりにも手荒い手段をとった。初春とは何も考えていないようで、誰よりも深く考え、先回りをすることが上手だ。
 このような強硬手段をとり、日頃は歳離れた弟として幼子の振る舞いをしているものだから周囲は初春をわがままな子だと認識する。しかし、初陽からすれば初春以上に我慢強い子を知らない。自身を過小評価し、初陽に対して妄信的なところがあるというのも原因の1つなのだが。基本的に初春は自分に与えられるものを全て初陽に譲るのだ。初陽も好きな物だから、初陽の方が似合うから、そのような理由を並べては自ら手放すのだ。
 だから初陽は初春が心配でたまらなかった。そうやって自己犠牲ばかり支払い、欲しいものを口にせずにいる初春が。そのうち初陽に甘えることすらしなくなり、1匹で堪えるようになるのではないかと。だが、それは杞憂に終わりそうだとここ最近思い始めた。

「やだやだやーだー! お外行く、おーでーかーけー!」
「いけません。朝、少し熱っぽかったでしょう」
「もう下がった!」
「安静にしてください」
「子ども体温なんてそんなものなんだから大丈夫だってば!」

 初春曰く、歳離れた弟であることを周囲に信じさせるためにショタムーブが大切だとのこと。だから、それらしく振る舞い可愛らしいおねだりをすることはあった。しかし、必要以上に言うことはないし、駄々をこねるなんてほとんどない。初陽に関しては特別枠として例外なのだが。
 さて、そんな初春の事情を踏まえ現状を語ろう。そう、初春専属の従者・オビに駄々をこね続ける初春ことを。

「後日にしましょう」
「今日じゃないとやだ! 今日がいいの!」
「うい、理由をちゃんと離さないと伝わらないわよ。あまりオビさんを困らせないの」

 地団駄を踏んでやだやだと頭を振る初春。朝、熱っぽかったのだから部屋で休ませようと苦戦するオビ。体格差的に初春を抱えてしまえば簡単だろうに強引に事を進めないようにしているところ、初春に納得してもらったうえで休ませたいのだろうと初陽は考える。そのような従者の心知らず、全力で抵抗する初春にひっそりと溜め息を吐いて初陽は助け船を出す。

「う……だって、だって」
「だってじゃないの」
「……おねーちゃんは臣くんに内緒で屋敷から抜け出すくせに」
「私はいいのよ。だってどこに行っても臣が絶対後から来るもの」
「ねえ、オビを困らせないのって言葉の説得力が一瞬でなくなったよ」
「別に困らせていないわよ? 呆れながらも笑っているもの。でも、オビさんが過保護になる理由だって分かっているのでしょう?」
「うー……」

 ぷっくりと白い頬を膨らませる。はつばかりずるい。目がそう訴えているのは一目で分かる。これは子どもっぽくするための我儘ではなく、本気の我儘。自分以外にもこういうことをする相手ができるとは喜ばしいこと。しかし、双子揃って従者に惹かれるのは遺伝なのかしら。と、くすくすと小さく笑いながら初陽は思考する。
 それから、初春を宥めるように頭を撫で、どうしたものかと悩まし気にしているオビをチラ見する。

「オビさん、困らせてごめんなさい。ただ、ういは体調が悪くて熱を出しているわけじゃないと思うの。ピクニック前日にはしゃぎすぎて寝付けない幼子のようにとても心躍るイベントの朝は少し熱っぽくなるの」
「心躍るイベント、ですか」
「……今日ね、このお店でショコラフェアするの。いろいろなチョコがいっぱい売ってるの」

 お出かけの準備万端だというように肩にかけていたポシェットからカタログを取り出し、おずっと手渡す。受け取ったオビは涙で瞳を潤ませている初春からカタログへ目を移す。ページを捲る。どこを開いても華やかなチョコレートの写真とパティシエの顔写真とコメントが掲載されている。
 初春が甘いものを好むのは知っていたが、まさかここまでチョコレート類を好むとは思いもしなかった。真剣な表情で悩み、再び初春に目を向ける。

「しかし、季節柄あらゆる流行り病が蔓延っています」
「インフルエンザの予防接種はしたじゃん! 嫌だって逃げたのにオビが捕まえたじゃん!」
「そうですね」
「マスクもするし、お家帰ったら手洗いうがいもちゃんとするから!」

 このような攻防がかれこれ数十分ほど続く。お互いの言い分も理解できるが、譲り難い。これでは話がまとまらず、日が暮れてしまう。事の行く末を見守ろうと黙っていた初陽は再度助け舟を出す。

「ういのことが心配なら人が多いところではオビさんが抱っこすればいいと思うの。あと、私も気になるものがあるからお使いを頼んでもいいかしら?」

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