妹の恋、兄知らず。兄の心、妹知らず。

 ティーカップの中に注がれた紅茶が波打つ度、ショコラのビターな香りが強くなる。その香りを堪能しつつ、ティーカップに口付ける。紅茶の中で溶け合ったミルクとハニーがほどよい甘さで身も心も安らぐ。口腔内に広がる味と香りを楽しみ終えたら久愛が試作してみたと言って渡してくれた苺とショコラクリームをたっぷり使ったケーキに手をつける。どれもこれも美味しくて心が満たされる園香は日頃めったなことがない限り感情を浮かべない顔が和らぐ。

「で、お兄ちゃんはなんでそんなに落ち着きないわけ?」
「え?!や、別にそんなことは」
「あるでしょ。私の表情筋全部持っていったんじゃないかというくらい顔に出るんだから」

 瑞々しい苺にショコラクリームを絡めて頬張りながら、ティーカップを持ったり置いたりと落ち着かない様子の良絡に質問を投げる。大袈裟に肩を揺らした良絡は赤い瞳を右へ左へと忙しなく動かして、じとっとした園香の視線から逃れようとする。動揺していることが丸分かりな態度に園香は我が兄ながら非常に残念な姿だとひっそりため息を吐く。
 身内贔屓を除いて見ても良絡の容姿は恵まれている。静止していれば色気をたっぷり孕んだフェロモンを垂れ流しにするくらいだというのに。事実、良絡は老若男女どころか幽霊まで虜にしている。……という話をうっかり言咲にしたら「つまり霊×墓守というホモが誕生するわけだね!」と。妄想のネタにされていたことを思い出し、園香は遠い目をする。

「……先日、園香が男の子と歩いているのを見まして」
「いつものことじゃん」
「その発言だけ聞くと大分遊んでることちなるからね!」
「遊びで付き合ったことはないけど傍から見たらそんなものでしょ。というか、この場合のいつものことっていうのは身内も友達も男の子の割合が多いんだからって話で」
「取っかえ引っ変えだけど恋人に一途な園香は彼氏以外の男とキスとかしないでしょうが!」

 妹の現場見てしまったお兄ちゃんの気持ちぃ!とテーブルに突っ伏してわんわんと騒ぐ良絡に園香は咳払いをする。それを言うなら兄に見られたことを知った妹の気持ちも考えてほしい。その言葉はふわふわのスポンジと一緒に飲み込む。

「……で、それが何。私に恋人がいるなんて珍しくもないでしょ」
「そう。そこは別段珍しくない話なんだ。お兄ちゃんとしてはころころ相手が変わる園香が心配でたまらなかったけど。身内に甘々で深入りしちゃう園香が恋人として懐に入れた相手に毎度心のない言葉で傷つけられて振られては、新しい人を受け入れる姿は自傷行為に等しいのではないかとね、そりゃあもう心配してるんだけど、珍しくないんだよ。むしろ恋人いないときの方が珍しいよね」
「お兄ちゃん。話の長い男は嫌われる傾向にあるからね。がうちゃんとか代表例」
「彼は話が長い以前に自分の欲求しか口にしないじゃん」
「エゴマゾだからね」

 このままだと夜が明けるまで自分のことについて語りかねないと思った園香は話題に全く関係のない芽生の話を挟み込む。強烈な代表例を浮かべた良絡は冷静になり、回り続ける口を止める。静かになった良絡を確認した園香は話の続きを促すように首を傾げる。

「その彼氏が去年メイアが「つーちゃんが送ってくれた写真に珍しくそのちゃんの彼氏が一緒にいるのですよ! みてみて、かっこいーのです!」とか言って教えてくれた男の子と一緒なんだけど?!」
「…………」
「…………」
「……お兄ちゃん」
「……はい」
「めーちゃんの声真似したつもりなんだろうけど、すごく気持ち悪いことになってるからさ。今度めーちゃんに会ったら謝りなよ」
「やってすごく後悔したから言わないで」

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