妹の恋、兄知らず。兄の心、妹知らず。

 良絡の身内すら笑えない物真似に冷めた目を向ける園香。妹の突き刺すような視線に涙ぐんだ良絡は羞恥心と悲しみをバターを贅沢に使ったクッキーと一緒に噛み砕く。それから未だに濃厚なショコラの香りを広げる紅茶で流し込む。
 優雅とはとても言えない良絡の行動を眺めていた園香は自分のティーカップの中身も空にし、次は何を淹れようかと考える。

「じゃなくて!」
「わ、吃驚した。テーブル叩いてまで勢いをつけないでよ」
「園香が1年も同じ男と続いてるなんてお兄ちゃんは聞いてません!誰よ、この男!」
「なんでちょっとオネェ入ってるの。いくら見た目良くても似合わないものあるよ………って」

 ばんっ。勢いよくテーブルに叩きつけられた1枚の写真に目を向け、園香は絶句する。伝依がメイアに送ったという写真なのだからてっきり皆と遊んでるときのものだと考えていた。園香が家族団欒の場に恋人を招くなんて過去一度もなかったのだから、喜んだ伝依が遠方に住む姉に報告することは想像に容易い。が、実物は園香の予想と異なったものであった。
 写真に釘付けとなった園香は青くした顔をじわじわと朱色に染め直す。身内のことになると比較的顔色を変えやすいことを知っていたが、こんなに珍しい表情を浮かべるなんて。と、良絡は目を丸める。

「な、はっ……は?!」
「園香も動揺することあるんだなあ」
「私、適応力は低い方だと自負してるけど。じゃなくて!」
「わ、吃驚したぁ。動揺したとはいえテーブルは叩くものじゃないぞ」
「その写真!」
「メイアがくれた。手元にもう1枚あるからって」
「つーちゃんは何枚あげたの?! というか、なんでそれを持ち歩いてるの!」
「今日問い詰めようと思って。あ、メイアは仕事中の癒しとして鞄に忍ばせてるってよ」
「つーちゃん関連ならまだ納得する……けど! なんで私とアサヒくんの写真でめーちゃんが癒されるのさあ!」
「ヒント、メイアはメンクイ」
「それは答えって言うんだよ」

 それは没収!声を荒らげ、写真を奪おうとする園香。その行動は読めていたと言わんばかりに良絡は園香の手が写真に触れる前に回収し、ポケットに忍ばせる。きっと鋭く睨みつけるが、真っ赤な顔では迫力に欠ける。それどころか、シスコンを自負する良絡を喜ばすことになった。
 わなわなと身体を震わせる園香。今この場に久愛が作ってくれた茶菓子がなければ影縫いでもなんでも放って良絡に攻撃していただろう。いかなる場でも家族が作ったものを台無しにする行為は絶対にしないという園香の性格を分かっている上で良絡は写真まで見せたわけだが……羞恥心でいっぱいとなった園香の頭では兄の策略にまんまと踊らされていることまでは気付けなかった。

「写真撮られていることに気付かないなんて、入稿後か? 園香が彼氏にそんな姿見せるとはなあ」
「そ、それは! つーちゃんが勝手にアサヒくんを呼んだの!」
「そして甘やかされてぐっすり寝たと」
「あーあー、何も聞こえないー! 写真を渡してってば!」
「え、やだよ。妹の貴重な写真だぞ。可愛いから俺も宝にする」
「どこの世に恋人と昼寝する妹の写真を宝にする兄がいるのよ!」
「園香の目の前にいるじゃん」

 どや顔を隠すことなく胸を張る良絡。その顔がまた腹立たしく、園香は唸り声をあげる。1度動揺すれば立て直すのに時間がかかるところがまた可愛らしいなあと良絡は声をあげて笑った。そして調子に乗りすぎとケーキを入れていた空箱を顔面めがけて投げつけられる。さすがにそれを顔面で受け止めるほど良絡も間抜けではない。飛んできた空箱を片手で受け止め、にっこりとご満悦。
普段ならともかく、今の自分では調子に乗った良絡に勝てないと悟った園香はテーブルに顔を突っ伏して意味の成さない声をあげる。

「新しいお茶淹れようか?」
「……ストロベリーティー」
「ミルクいれる?」
「牛乳で煮出して」
「ここぞとばかりに我儘だなあ」

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