好感度上昇は計画的に

 始まりは顔が好みだったから。あの顔を歪ませて鳴かせたいという意味での一目惚れ。予想としてはモテそうな顔立ちをしてるけれど、性格に難があって女慣れしていない。だからちょっと媚を売って甘えて、傍に居続けたら簡単に落とせると思っていた。
 案の定、その人はその手のものとは無縁だった。無防備に見えるわりに(実際に、懐に入れた相手に対しては隙が多いから否定はできないしね。)警戒心があるような。つまり癖の強い人だった。でもそのタイプの攻略は難しいようで簡単。その人が一番大事にしてるもの、頑張ってるものをひたすらに好きということを伝えることが有効的。なので僕は調べた。どこが琴線になるのか。そして、きっと彼が真剣に色付けた世界に触れた。

「この世界観、好きかも」
「なんだそれ、絵本?ネヴィ、何歳に返ったんだよ」
「いやあ、そう思いながらも手に取ったんだけどさあ。侮ることなかれ、とうの昔に卒業した絵本かと思いきや結構奥深い」
「ふーん?」

 湿った髪から滴る雫に対して「本が濡れるから離れて」と言えば、ノヴァは笑って離れていった。どうやらそそるものがなかったらしい。「風呂空いたからさっさと入って寝ろよ、明日早いぞ」と冷蔵庫を漁る音にまぎれた声に対しては「んー」と空返事で返す。もう少しだけこの絵本の続きが読みたいのだ。

「……、……あ。冷蔵庫の棚にはいってるお茶、媚薬入りだから飲んじゃダメだよ」
「そういうものは共用冷蔵庫にいれんなつってんだろうが」
「あとでしまおうと思って」
「何、これ例の絵本作家に盛ろうとしてんの?」
「そうそう。ちょっとやそっとの誘惑じゃ落ちそうになかったから強硬手段でようかなあって」
「そんなにいいのか。調教終わったら俺にも味見させろよな」
「別にいーけど……ノヴァの好みの顔じゃないと思うよ?」

 どちらかというと端正な顔立ち、イケメン寄りの綺麗。あの人はそういうタイプであって、可愛い系が好みなノヴァからは外れるだろう……あ、でも鳴いた顔はそそるとか言いかねないかも。ふむ、と3Pという案を考えながら悪くはないと頷く。

「ところでこのお茶飲んじゃったんだけど」
「デリヘルでも呼びなよ」
「えー……この時間に適当なの呼ぶくらいならほなちゃんの方がよくね?」
「ほなみん、携帯もってないじゃん」
「テレパシー的な何かで送信」
「エスパータイプいないからなあ」

 じゃあネヴィが相手しろよなあっとくっつかれるが、優しい考えを抱きたくなるような絵本を読んだ直後にそんな気分になれるわけもなく。ぺらぺらページをめくっていた絵本を閉じて「お断りー」と頭に乗せられた顎に頭突きをする。

「あーあ。目も鼻もきく対レントラー用として入手した無味無臭のお高い媚薬だったのになあ」
「お前、また媚薬のレパートリー増やしたのかよ」
「相手を落とすには性癖と媚薬の相性からって言うじゃん」
「言わねえ」

 絵本を絵本棚に戻し、彼の作品もなかなか増えてきたなと考えこむ。これだけ作品を読めば、そろそろファンだから近づきたかったんです。貴方の描く絵本が大好きですと言ってもぼろはでないだろう。嘘は言っていないし。あの世界につめこまれたものが、彼の思考に基づいて形成されたものだと考えれば……僕はあの人の考え方が結構好ましく思える。辛いことも悲しいことも優しく包み込まれて、救われた気持ちになるような。
 まあ、絵本を読み始めたのは口実作りであって、目的は犯すことなんだけど。早くあの綺麗な顔をぐちゃぐちゃに泣かせてしまいたい。
 背表紙に記された著者名を人差し指でなぞってにんまり笑う。そう伝えたらこの人は、マキさんはどういう反応をするだろうか。悪い気はしないだろう。これは僕の予想だが、見た目に反してお花畑的な頭をしていそうな彼はこの作品たちのターゲット層である子どもに懐かれることが少ないタイプだと見た。そのため、自分の作品を読んだ相手から直接好きと言われる機会は少ないのではなかろうか。サイン会とかをほとんど開いていないのが良い証拠だろう。ならば、この攻め方の効果は期待できる。
 これをきっかけに警戒心も解して睨むのをやめてくれたら良いんだけどなあ。……あの綺麗な顔であんな風に睨まれたら、俄然ヤる気がでてむらっとしてしまううし。我慢するのも大変なんだし!

「あ、ほなちゃん捕まったわ」
「え、奇跡じゃん。僕もお風呂はいってからまーざろ」
「今の客終わったらくるってよー」
「りょうかーい」

 想像しただけで昂ってきてしまったこの熱をほなみんに抜いてもらおう。楽しみでつまった予定に胸を躍らせ、絵本棚に背を向けた。

prev next
TOP

ALICE+