その日はベタにも雨が降っていて肌寒かった。
夕飯は何にしようか。冬も近いし鍋が美味しい時期になるな。暖房をつけるにはまだ早い気がするが、雨で気温が一桁に近くなっているし今日くらいは良いだろうか。などと思考に耽りながら仕事から帰ってくると、玄関前に見慣れているが見慣れないものが蹲っていた。
若い女の子ならば一度はしてみたいと憧れるような花の形を模したハーフアップの髪型。綺麗に形は保たれているが、濡れているのは雨にうたれて来たからだろう。周囲に傘はないことから考えるまでもない。
問題はどうしてかっこいい男の子が大好きだと世間で言いふらして同業者の女性たちに敵視されておきながら、実は大の男嫌いのモデル・puÅが自宅の前で蹲っているのかということだ。しばらく考えてみても理由は皆目見当つかない空木はとりあえずpuÅに声をかける。しかし、反応は返ってくることがなかった。
「……? おーい、大丈夫か?」
「ん……私……」
「まさかと思うけど、こんなところで寝てたのか?」
「寝て……えっと、ん、ちょっと」
肩を揺すればゆっくりと顔があがる。向日葵の花弁が混じったような薄緑の瞳と目が右へ左へとさ迷わせてから長い睫毛で影を作る。言葉を吐きかけた唇は息だけを漏らしてきつく噛まれる。普段の気の強い彼女らしかぬ弱弱しい態度であるが、目を引いたのはそこではなかった。
「…………とりあえず家に入れば」
「あの、さ」
「何?」
「数日……ううん、今日だけでもいいから、その」
匿って。
弱々しい呟きは雨音にかき消され、空木の耳に届くのが精一杯であった。
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