手の甲からじんわりと温もりが自分の身体に溶け込む。手の平ではなく手の甲で首に優しく触れるのは絞められた痕に気付いているからだろう。その手は自分のものよりごつごつとしていて、嫌でも性差を意識させられる。
男に触られるの死ぬほど嫌いなはずなのに、この手は……。と、いうところでpuÅは思考を止める。じとりと睨むように空木の顔を見上げてから唸り声をあげ、頭をぐりぐりと胸に押し付ける。
「どう見ても男の手なのが悔しい」
「どう見ようとしてもそうじゃなきゃ困るんだけどな」
「触られても不快感がないから実はどこかメスっぽさを孕んでるのかと思って」
「言い方」
「まあ、逆にオスっぽさも感じないわけで……あれ、ガラガラって無性別?」
「ちゃんとありますー」
両手を首から離し、わしゃこらと鮮やかな黄緑の髪を撫でまわす。髪が絡まるからやめろつってんでしょうがとpuÅが怒れば、空木は悪かった悪かったと謝りながら絡まりかけた髪に指を通す。さすが、毎日入念な手入れをしているだけあって少し手櫛をするだけで元通りになる。
「女の子の髪を撫でるのが意外とお上手で」
「意外かよ」
「見た目がちゃらいわりに女の子と距離おいてるから……童貞臭さが」
「ん゛っ。この状況でそういうこと言うか」
「そこらの男なら獣かつ屑の塊だと思ってるけど。そんな風に思っていたらここまで安心してひっついてな……」
puÅは慌てて口を閉じ、言葉を飲み込む。しかし、9割以上の本音が口から出た後なので時既に遅し。空木は目をぱちくりと瞬かせて、顔を青くしたり赤くしたりと百面相するpuÅの顔を見る。
やらかしたという己の口の軽さを恥、そして男相手に安心感を抱いたことに悔しさを覚え、そして何よりそれを本人に知られてしまったことに照れが増したpuÅは空木の腰に回していた手を離し、顔を覆い隠す。が、耳も首も赤くしている時点であまり効果は成さない。
「ほう」
「……何その顔」
「俺に対して安心感を覚えていたのかあ」
「〜〜っ、う、うるさい! 調子乗らないで、にやつくなあ!」
「警戒心の強い野良ニャビーに懐かれた気持ちがなあ」
「もう! お腹空いたから朝ご飯食べるよ!」
え。
空木の口から気の抜けた声が零れる。照れ隠しの勢いで布団を剥ぎ、全身に襲った冷気に身震いしながら身体を起こしたpuÅは何、と聞くために空木へ目を向ける。目を合わせて数秒してから空木が何に驚いているのか、自分が何を言ったのかに気付いて慌てて口を押える。
が、既に口にした言葉をなかったことにすることはできるわけもなく。puÅは気まずそうに目を泳がせる。あー。うー。と唸り、もごもごと口ごもらせている様子から何かを言いたいのだろう。空木は身体を起こし、puÅの次の言葉をゆったりと待つ。
「た、たまには」
「うん」
「場所借りてるお礼として、ご飯作ってあげなくも、ない」
「…………」
「あ、でも! 台所使われたくないとか、私物触られたくないとかあるだろうから無理して貸さなくてもいいから! その、普段から部屋の隅だけでいいからって言って泊まらせてもらってるのに、約束破って布団の中お邪魔しちゃったからお詫びができたらと思っただけで!」
例えば、puÅが「少しばかり他の男と比べたらましだと思っているだけで、別に全然好きとかじゃないから勘違いしないで!」と。典型的なツンデレ発言をした場合、空木はそこまで念を押さなくても分かってるんだけどなと苦笑をする。
そういうツンデレに対して耐性のない空木であるが、落ち着きなく早口で話しては、唇を噛んで俯いているpuÅの表情を見ればさすがに察せるものはあった。
「意外と不器用だよなあ」
「え、何の話?」
「驚きはしたけど、それくらいで今更どうこう思わないんだけどって話」
人の生活に踏み込むのを嫌っているのか、それとも遠慮しているのかは不明だが。puÅが布団の中に潜ってきたことや朝ご飯を食べていくような発言をしたことを引きずっているのは明らかである。
図星を突かれたpuÅは「普通はそこ、怒るところだと思うんだけどな」蹲って小さく呟いた。それからもう一度お人好し、と消え入る声で言ってから顔をあげる。
「朝はパン、お米、麺。何派なの?」
「あー、その前に朝食の材料になるものあったかなあ」
「何かあればそれで作れるよ」
「料理上手みたいな言葉だな」
「食事を制するものが体型を制するからね」
意識の高いモデルとしての発言をどやっとした顔で言い、それから力の抜けた笑みを浮かべる。寝てる間に固まった身体をぐっと伸ばし、パキポキと小気味の良い音を鳴らしてから立ち上がる。
今のやりとりで開き直ったかのような動きを見せるが。台所の方に足を運ぶ途中でちらりと空木の方を振り返り様子を窺う姿はようやく懐いた野良ニャビーが素直になったのはいいものの、本当に良いのかと心配する様子によく似ている。そのようなことを言えば膨れっ面で背中を叩いてきそうなので黙ることにする。
「そっちが嫌とか駄目とか言わなかったんだからね。あとで文句言うのなしだからね!」
「文句の代わりに期待値上げておくな」
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