夕焼けに混じってきらきらちかちかと点灯するイルミネーションが視界の端にちらつく度に白い吐息を大きく吐き出す。帰路に着く足を早めるが、カップルの甘ったるいやりとりが五感の一部で捉えてはずっしりと胸あたりが重くなり、速度を緩めたくなる。
園香は思い出す。11月頃に恋人としては上手い付き合いはできなかったが、別れてからは家族以外では誰よりも気が楽な親友の花華夢から言い渡された言葉を。
「そのちゃんは彼女も彼氏もいたことあるからクリスマスに悩むことないでしょ! 私は初めて彼女じゃなくて彼氏ができたからプレゼントから意味不明なの!」
あのとき、園香は適当に相槌を打って流した。自分が言わなければ茶化されることから逃れられると思ってのことだ。しかし、どうやら話し声を聞いてしまったらしい伝依は花華夢が帰った後に存分に園香をいじり倒した。自分が家族をからかうときに浮かべているときに浮かべる顔とよく似た笑顔を浮かべて。
そう。確かに園香は男にも女にもプレゼントを送ったことがある。しかし、それは恋人ではなく家族に対してだ。付き合っている期間が短すぎる上、家族との行動を最優先にしてきた園香にとってイベントを恋人と過ごすことはほとんどなかった。イベントを1人で過ごしたくなくて恋人を必死に作ろうとした相手がそんな園香に耐えきれず、恋人と過ごす予定としていたイベント目前に別れを切り出すのだ。
つまり、男も女も途切れたことのない園香だが、クリスマスを恋人と過ごしたことがないのだ。
「そもそも、クリスマスは読み聞かせの仕事が入るからなあ 」
伝依がクリスマス用にと書き起こした文章を紙芝居にして。編集に見せては修正をしての繰り返し。完成した頃にはクリスマス直前で恋人と過ごす用意なんてできてないから、いっそのこと仕事をしてから家族と過ごすことを恒例とし始めたのは絵本の仕事に携わるようになってからのこと。自分が描いた絵を全面に出して読み聞かせをするというのは新手の拷問かと思う時期もあったが、子どもたちの喜ぶ顔を見ればまあいいかという気持ちになるのだ。
大きなプレゼントを両手に抱えて街路を走り回り、ぶつかりそうになった子どもを避ける。慌てて謝罪をする親に対して浅く頭を下げて、読み聞かせで楽しく笑っていた子どもたちも今頃は家族と楽しい時間を過ごしているのだろうかと考えては胸を温める。
「そういえばことのちゃんは今年のクリスマスパーティ来るのかな」
ふと、言咲を思い出して足を止める。潔と付き合った初めの年はさすがに恋人だけで過ごしていた。途中でクリスマスイベントを迎えたホモについて熱く語ったのだと報告を受けたときには頭を抱えたものだ。結婚した年もクリスマスデートをしていたなあ。早くも数年目となったあの夫婦はどうするのだろう。どちらにせよ全力で迎え撃つけれど。
幸せそうな顔を浮かべる言咲を思い浮かべ、口許が緩むのでマフラーで顔を隠す。そして思い出す。今年も家族と過ごすよと言ったときの久愛と芽生の顔を。珍しくクリスマスの日にも彼氏がいるのに一緒に過ごさないのかと有り得ないものを見ていたのだ。しかし、園香は言いたい。修羅場を明けて、突貫工事で人前に出ても恥ずかしくはない身なりに整えはしたけれど、その格好で仕事を終えて好きな人の隣に並ぶのはさすがになしだと。
「プレゼントは当日に渡したいという欲はあったんだけどなあ」
何せ初めて恋人のためにと考えて用意をしたプレゼントだ。クリスマスは一緒に過ごさなきゃ嫌だ!という考えは持たないが、欲は少し芽生えていた。しかし、それはできるだけ考えないようにしていたことだ。なぜなら、その恋人であるアサヒに仕事があるからクリスマスを一緒に過ごせないと言った手前、考えれば考えるほど胸が重くなるから。
しかも、直接言ったのではなくメッセージで。修羅場の最中に短文で送って、それっきりスマホを見ることをしなかった。いくら切羽詰っていたとはいえありえない。優しいアサヒとはいえ、怒ってもおかしくない行動をとった自覚のある園香は今日の読み聞かせが終わるまで全力で現実逃避をしていたのだ。
「……うん。どうしよう」
アサヒくんなら仕事なら仕方がないね、頑張ってね。なんて言ってくれそうだと思って甘えすぎた。足を止め、悩む。
これが伝依相手なら今目の前でサンタクロースの格好をしたお兄さんが売っているケーキを手土産に謝れば許してくれるのだろうけどなあと悩んでいると鞄から小刻みな振動が伝わってくる。誰からだろうとスマホを手に取り、送られてきたメッセージを読んで絶句する。
「……いや、は?」
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