メッセージを読んでから園香の行動は早かった。肩から落ちかけた鞄をかけ直し、クリスマス全開の街並みを眺めることをやめて自宅まで走った。ジュナイパーの姿に戻っで飛んだ方が早いのにと舌打ちをする。
マンションの正面入口に辿り着き、扉を開けるために鍵を出そうと鞄を漁っていると内側から扉が開く。目を向ければにこにこ笑顔の伝依と達成感に満たされたドヤ顔を浮かべる夏彦と先騎がそこにいた。
「信じらんない!」
「提案したのはつーちゃんだ」
「実行したのはなっちゃんな」
「そして便乗したせんちゃんでしょ!」
珍しく声を荒げて怒る園香に3匹は想像以上の収穫だと喜ぶ。これは何を言っても無駄だと頭を抱えたくなった園香はじとりと3匹を睨んでなぜ今から外に出ようとしているのかと問い詰める。すると伝依はスケッチブックにそのちゃんの初めて恋人と過ごすクリスマスをゆっくりしてもらいたいから。といった旨を丁寧な字で書かれる。
エンテンと同じくらいに大切に守ってきた伝依に園香の幸せを自分の幸せかのように満たされた顔で言われてしまえばこれ以上の文句を言えなくなる。
「避妊はしろよ」
「なっちゃん、それおじさん臭いセクハラ発言だから」
「どうせ持ってるだろうが、そんなおじさんからのクリスマスプレゼントだ」
「過去最低のプレゼントだよ!」
ぽんと手のひらに置かれたのはこの聖なる夜に盛り上がった恋人たちの必需品。いくらタマゴグループが違うから妊娠する可能性は点パーセントで低いとしても、擬人化した姿は別物というからアサヒと園香の間にも欠かせないものとはなる。だが、それを渡す男がこの世のどこにいると言うのだ。よりにもよって伝依の目の前で!
涼しい顔している夏彦を睨みつけ、気まずそうに目を逸らした先騎にさすがにこれは止めてよと軽くお腹を叩いた。
「えんちゃんに明日プレゼント持っていくって言っといて」
「俺たちには?」
「良い子にしかプレゼントが届かないのは常識でしょうが!」
伝言を託し、プレゼントを催促する先騎に先程よりも強く叩いてから、伝依には小さい声でお礼を言う。それから前を通り過ぎ、エレベーターを待つ時間も惜しいので階段を昇る。
自分の部屋のある階に着き、膝に手をやり息を整える。落ち着いたらスマホのカメラを起動し、インカメにして鏡代わりに使う。髪の乱れを整え直したら深呼吸をしてからドアノブに手をかける。鍵を開けることをせずとも開いた扉に予想通りではあったが、その不用心さに溜め息が止められなかった。
「ただいまあ」
玄関に入れば癖で声をかける。いつもなら伝依が小走りで出迎えてくれるが、彼は今さっき夏彦と先騎と出ていったのでいるはずがない。代わりに玄関に並んでいる靴を見て、あのメッセージが事実であることを確認する。
脱いだ靴を並べ、冷えた床を早足で抜けて、リビングへ繋がる扉を開けば温暖な空気が流れてくる。寒さから解放されてほっと一息をつきたいところだが、ソファーでくつろいでいたのであろう人物のおかげでそれは叶わない。
「おかえりなさい」
「……本当にいる」
「気付いたら先騎くんに担がれてたんだよ」
「うちの子たちがごめん」
夏彦から届いた1通のメッセージ。そこにはまるで犯行声明のような文言でアサヒを連れ込んだことが記載されていた。
ソファーの前に置かれたローテーブルにはポテトチップスやお酒の缶が転がっており、いつから始めたのか知らないが酒盛りをしていたらしい。突拍子もないことを企て、周りを巻き込んで実行する男性陣に頭を抱えたくなる。提案者の伝依は善意によるものだったであろうが、残り2匹は悪戯心しか孕んでいないだろうから余計腹を立たせる。
「でも面白かったよ」
「それはよかった」
「夏彦さんたちがそのちゃんと武勇伝とか聞いて」
「撤回。何も良くないしばく」
コートをハンガーにかける。鞄を椅子の上に置いた際、僅かに開いているジッパーの隙間から見える赤いリボンでラッピングした袋が目に入る。小さな袋に包んだため、それは丁寧に扱えばポケットの中に入るだろう。園香は少し悩み、それからアサヒに気付かれないようポケットに忍ばせた。
キッチンに行って飲み物でも取ろうかと冷蔵庫をチラ見すると、それに気付いたアサヒが「飲み物、まだ残ってるよ」手招きをする。
「ん」
「お仕事お疲れ様」
「あ、えーと……」
「うん」
「その、ごめんね……」
アサヒの手招きに従った園香は隣に座る。それから気まずそうに目を泳がせ、ぽつりと謝罪の言葉を口にする。俯き、三つ編みにされた後ろ髪が前に垂れて、影を作る。それもあって顔色が曇って見える。
目を細め、園香の横顔を観察する。そして、思い出す。拉致の勢いで連れてこられ、酒のつまみとして聞いた話。園香はクリスマスのときに恋人はいたことがなかったこと。そして、その習慣で仕事を入れてしまいアサヒと過ごせなくなってしまったことを気にしている。ああ、なるほど。納得をする。
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