「チキンにケーキにメリークリスマース」
「何その歌」
「この間火音ちゃんが歌ってたの。やたらと耳に残っちゃって」
「あー、イベント好きそう」
片手にはエンニュートのぬいぐるみ。片手には眼鏡をかけた白いおじいさんがトレードマークのチキンを入れた箱。両手を荷物で塞ぎ、空木の数歩前を上機嫌に歩くpuÅは途中でくるっと周って浮き足立っている。
あの後もホラーゲームで悲鳴あげたり、プリクラを撮ろういっそのこと貸し出し衣装でコスプレをとはしゃいだりと遊び尽くす勢いだったのにまだ元気があるのかと空木は苦笑いを浮かべる。それから、自分の手のひらにくい込むビニール袋の紐の位置を変え、飲み物やケーキを見てから楽しげなpuÅに声をかける。
「本当にいいのか? クリスマスなのにチェーン店のチキンと帰り道で見かけたお菓子屋のケーキが夕飯で」
「仕事柄徹底した食事管理をしている私も年に一度のこういう時期くらいはカロリー気にせず食べると決めてるのでいいよー」
「それもだけどそうじゃなくてだな」
言い悩む空木に首を傾げ、足を止める。それ以外に何か気にする要素があるだろうかと考える。言われたことを思い返し、手にある食べ物を見比べる。「あ、もしかしてクリスマスはチキンよりお寿司派だった?」問いかければ、そのこだわりはないんだよなあと首を横に振る。
「こういう日って少し高い店とかに行くものだと思ってたから」
「あー、そういう。うん、まあそういうクリスマスデートも多いよね。彼女がいた頃はそういう場所に行くと喜んでもらえたし」
「だからこれでいいのかと思って」
「もしかして私が遠慮してると思ってる?」
くすくす笑って、まさかとは思うけど。と付け足す。日頃のpuÅを思い返せば遠慮をしそうな気もするし、無遠慮に要求をすることもあるためなんとも言い難い。空木が正直に伝えれば納得をした表情で頷く。
質問内容の意味を理解したpuÅは質問の答えを出すために思考する必要もなかったため、足を進める。大事な話な気もするから顔を合わせて話したいところだが、太陽が隠れ、月が顔を出し始めたせいで寒さが増した。一刻も早く室内に入りたい思いが強く、早足になりつつあった。
「私にとってクリスマスデートって相手が喜ぶことを考えて練るものだったんだよね」
「気合い入れているの想像つく」
「だけど、相手が空木くんとなった途端に全然浮かばなくて」
「え、俺そんなに分かりにくい?」
「空木くんが分かりにくいというより、空木くんが好きそうなものに合わせたデートを考えて楽しむ自分が想像できなくて」
だってほら。今の今まで男を毛嫌いしていた私が、男のために動くっていうところから違和感しかないじゃん。
至って真面目に考えていますとでも言うような真剣な表情で頷く。それは事実だとしても彼氏に向けて言うことだろうか。思わず真顔になるが、説得力しかなかった。
「だったら私が一緒に行きたいなと思ったところを行こうと思って」
「それでゲーセンというのも意外だったな」
「……だって、世間が地面に足がつかないくらい浮かれすぎな日くらいじゃん。堂々と外でデートしてひっつけるの。それでも開けた場所だともしものこともあるし、ああいう賑やかで隠れやすいところじゃないと」
マスクで鼻の上まで覆い、表情を隠す。それでも拗ねたような、不貞腐れたような声色からpuÅがどういう表情を浮かべているのか想像するのは容易いもので。耳が赤くなって隠れていないぞと指をさせば「うーるさーい」頬を膨らませてチキンを入れた袋で背中を軽く叩く。箱の角が少しへこんだ気がするが、ケーキと違って形が崩れるようなものではないからと気にする素振りはない。
照れ隠しに物で叩くのをやめなさい。子どもを叱るように言えば、背中に頭突きをされるので髪を乱すように頭を撫でまわす。目立つ地毛を隠すためにかぶっているウィッグは入念な手入れをされたpuÅの地毛と比べたら触り心地がいまいちな気がしてならない。
「あと、向かい合って座って高いディナーを食べるよりも空木くんの膝に座って食べるケーキの方が美味しそうだなと思って」
「抱き枕の次は椅子ときたか」
「居心地も使い心地も花丸だよ」
「そりゃよかった」
少しずれたウィッグの位置を直す。赤くなっていることを指摘された耳はマフラーに埋もれさせて隠す。そして、照れが勝ったのか早く家の中入るよと急かし、見えてきた空木の住む家へ向かって小走りをする。月明かりしか頼りにならない暗がりで足元への注意は疎かとなり、途中で石に躓き転びかけていた。
そんな1匹であたふたとしている後ろ姿を見て、今日は終始落ち着きがない様子だなあと小さく笑う。なんだかんだでpuÅも浮き足立っていたのだろう。微笑ましい気持ちになっていると、先を進んでいたpuÅは足を止め「遅い」と。文句を口にするので歩調を早めて隣に行く。
「今年は私が好き勝手したから、来年は空木くんが好き勝手していーよ」
「その前に年末年始あるけど」
「え、一緒に過ごしてくれるの?」
「あ、違った?収録終わったら時間空いてるけど」
「違わない! 蓮実ちゃんも一緒に初詣行きたい!」
「初詣ってクリスマスほど浮かれないから見つかる気がするけど」
「穴場知ってるよ。初日の出見て、そのまま行こうよ」
「それは楽しそうだな」
「その前に今日のクリスマスを朝まで満喫しないとだけどね」
「まだケーキとチキンがあるしな」
2匹は目を合わせて笑いながら到着した家に入っていく。
夜が深くなるにつれ寒さが増す冬の夜。ホワイトクリスマスと言うには遅い時間に降り始める雪をお風呂上りに気付いたpuÅがベランダに出てはしゃぐのだが、寒さに凍えると分かり切った落ちが待っている。せっかく湯船につかって温めた身体が冷え、再び温まるためにソファーでくつろぐ空木に引っ付いたわけだが。
puÅがお風呂に入っている間にバッグの中に増えているプレゼントに気付き、空木がしれっとそのイヤーカフを身に着けた。引っ付いた際にそのことに気付いたpuÅが「私が帰ってから気付いてよ!」と。悲鳴があがったのは別の話である。
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