人の声と機械音が室内を埋めつくし、静かな場所がどこにもない大型ゲームセンター。豊富なゲーム機が密集し、若い客たちは忙しなく盛り上がる。puÅも例外ではなく、空木の手を引っ張って端から端を駆けてゲームセンターを制覇する勢いだ。
「次あれ、あれやろ!」
「待て待て待て。体力有り余りすぎじゃないか?」
「遊ぶときの体力は別物でしょ」
「若いこと言ってる」
「おじさんみたいなこと言ってる」
2匹の声はゲーム機がとめどなく流す音に覆われ、周囲の者たちの耳に届くことがない。白と黄緑と種族の特徴を全面的に表した髪は黒髪に染められ、感染予防が大切なこの季節ならば身につけていても違和感のないマスクで顔半分を隠す。
これだけの要素が揃っていれば注視しない限り2匹が世間をときめかす俳優とモデルのお忍びデートだと気付く者はいないであろう。
実際にpuÅの狙い通りで、2匹は周囲から浮くこともなく、ドラマで言うところの背景として通り過ぎるカップルのとして世間の目はスルーをしていく。
「あ。ねえねえ、あれ!」
「いかにも人を駄目にしますって感じのクッションだな」
「あれ欲しい。空木くん、とって」
「無茶振りでは? というか持ち帰りが大変だろ」
「空木くんの家に置いておくの」
「抱き枕目的に狙うには時期が遅くないか?」
「私の今の寝床、空木くんの腕の中だもんねぇ」
音ゲー。シューティング。ゴーカート。メダルゲーム。目移りするpuÅは空木を誘って片っ端から2人プレイをしていく。ゲームセンターに入って早くも1時間を過ぎ、そろそろ一息をつこうかと話し始めたとき、とあるクレーンゲームがpuÅの目についた。
横長ポケモンシリーズと名付けられてぬいぐるみの数々。イワンコやデルビル、ガーディと小さくてころころとしたポケモンたちがぐってりと横になって枕に扱えそうなものであった。
可愛い可愛いとはしゃぐpuÅはきらきらとした目でかい空木にねだる。空木の自宅を逃げ場としていた時期には物1つどころか塵1つ残さないようにしていたpuÅとは思えない図々しさに笑ってしまう。
「ほら! エンニュートが紛れてる!」
「え、頑張る。あ、待て。難しいところにあるぞこれ」
「でもエンニュートだよ!」
粘ってでもとるべきじゃない?! いぬポケモンたちの中に紛れ込んでるとか私たちに取ってほしいと言ってるものじゃん!
空木の袖をくいくいと引っ張り、力説をする。他のポケモンであればともかく、エンニュートとなれば確かにと押された空木は仕方がないと財布を取り出し、500円を投入する。
「上のぬいぐるみ取った方が早いか?」
「え、とれるの?」
「頑張ればとれる気がする」
「頑張って、めっちゃ頑張って!」
「ちょ、集中するから揺らすなって」
お腹を見せてぐってりと横たわるイワンコの身体にアームを引っ掛けようと慎重にレバーを操作する。1回目にして引っかかり、宙に浮く。その様子にpuÅは空木の腕を掴んではしゃぐ。そうこうしてるうちにアームから外れてぽてりと落ちてしまい、空木と少しばかり叱られる。ちろっと舌を出して謝り、集中しようとぬいぐるみに釘付けになる空木を上目で観察する。
「……」
「あっ、もう少しなのに」
「……、……」
6回目の挑戦を終え、イワンコの下敷きとなっていたエンニュートを掘り起こすところまでいく。そして迷いなく次の500円を投入する。なんだかんだで真剣に取り組んでいるなあ、意外だなあと口許がにやける。
そして、ふと気付く。クレーンゲームに集中している今ならば空木にばれずにプレゼントをバッグに押し込めるのではないかと。背中に回されたボディバッグをチラ見し、そろっと手を伸ばす。途中、ぬいぐるみがアームからすり抜けて声をあげるからびくっと手を宙に彷徨わせるが、バレることがなかったのでそのままバッグのジッパーに手をかける。
「お!」
「へ?!」
「取れた!」
「え、本当に?!」
歓喜の声があがり、驚いて少し勢いをつけてラッピングしたプレゼントをバッグの中に突っ込む。少し皺を作る音が聞こえたが、puÅの最優先事項は空木にバレないようにすることなので気にしている暇はない。
幸いなことに空木はお目当てのぬいぐるみが取れた喜びに意識が傾いていたので、背後で不審な動きをとるpuÅに気付くことはなかった。
「思ったよりも大きいな、これ」
「あはは。本当だあ、抱き心地がすごくいい」
「え、俺にも抱かせて」
「ほらほら、これ絶対駄目にされるよ」
小柄なpuÅが抱き締めれば尾が床に着きそうなくらい大きなエンニュートのぬいぐるみは予想通りのもふもふ具合であった。背に顔を埋めて堪能した後、両手を広げて待機する空木にpuÅごと抱き着くような形でぬいぐるみをおしつける。
「普段あれだけ人目に厳しいのに珍しい」
「クリスマスデートに浮かれたカップルは夕方から思考が性なる夜に染まって他人に目はいかないものなんだよ」
「言い方」
「それに、もしも見つかったところで私が一方的にくっついているだけにしか見えないからなんとでも言い訳は作れるよ」
へらりと緩い笑みを浮かべて口にした言葉はpuÅの常套句であった。
男が物凄く嫌いで恋愛対象が女の子であるということを隠すためにあえて男好きとして振舞っていたから、周囲もそういう風に捉えている。だから2匹でいるところを目撃されて話題になっても、いつものようにpuÅが一方的に付き纏っているのだとでも言えばスキャンダルになりようがない。そういう徹底した根回しがあるのを知っていたのもあり、逃げ場に自宅を提供していたところもある空木だが、さすがに恋人になった今でもそういうことを言われると思うところもある。
が、それを今言ったところでどうにかなることではないのも知っている。なので、周囲に人がいないことを確認してからぬいぐるみ越しに抱き着いてくるpuÅの背に軽くてを回す。
「珍しい」
「他人に目がいかない日なんだろ?」
「……そう言ったけど、そうなんだけどさあ」
唇を尖らせ、もにょもにょと言い続けている姿に今日は怒って照れ隠しをするのではなく、素直に照れる日らしいと察する。それならもうしばらくこのままでもいいかもしれないと思わなくもないが、さすがに公共の場で命取りになるようなことを進んでしたくないのですぐに腕を解く。
その意図を察したpuÅもぬいぐるみを抱き直してから離れ、次はあのゲームをしたいとホラーゲームを指さしていた。
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