幸せが降る夜に

「クリスマスは家族友人恋人、大切な方々と時間を共にすべきだと思うわ。仕事先の上司と過ごすなんて論外。よって24日、25日は終日オフ。拒否権はないわ」

 半ば強制に休みを言い渡したのはクリスマスイブの前日。突然言い渡された休みに動揺した臣。なんで、待てという制止を聞かない初陽。
 前日にいきなり言われても困るだろうともっともな臣の言葉には、旦那様には既に了承を得ているわ。臣に伝えるのを前日にしていただけ。と、悪びれもない回答が返ってきた。
主は初陽であるが、雇い主は悲しいことに現在春式な当主代理を勤める分家の旦那。彼が了承し、休みと決めたのであれば雇われている臣が拒めるわけもない。せめて1週間前にでも言ってくれたのであれば何かしらの理由をつけて撤回させれたかもしれないのにと考え、察する。
 臣ならばそうするであろうということを読んで初陽は前日に言い渡したのだということを。

「お嬢様。お食事の準備ができました」
「いらないわ。体調が優れなくて食欲がないの」
「しかし、旦那様がお客様を招いております。お嬢様を必ずお連れするようにと」
「お客様の前にお出しできないくらい荒れていたとお伝えしてちょうだい」

 そして、12月24日。臣は初陽に言い渡された休日のため屋敷にいることができず、実家に帰ることになった。屋敷には彼以外の味方がいないため、2日間は部屋からでないと決め込んでいた。
 扉を叩き、昼食を知らせにきた使用人には申し訳ない気持ちがあるが行ったところで分家の主と繋がりの深い貴族を紹介され、都合のいい結婚に結び付けられることが目に見えている。何をしてもどうせ自分の立場が改善されることもないし、こういう日にまで嫌な思いをすることもないだろう。
 部屋から離れている足音を確認してから、深いため息を吐き枕に顔を埋める。そしてスピーカーのミュートを解除する。ブォンと機械音を鳴らして起動したカメラは腹を抱えて笑い転げる夏々をアップで映し出していた。

「夏々、笑いすぎだわ」
「はっちゃんの露骨に嫌そうな顔って俺的に変顔でツボだからつい」
「何よぉ、それ。初陽を貶すと私が許さないわぁ」
「女性の顔を笑うとか失礼極まりないよね」
「でたぞ。はっちゃん信者」
「私が怒る間もなかったね」

 画面を2度タップすれば画面は三分割される。ひと足早く繋げていたのであろう3匹は映像を含めたやり取りをしていて。
 笑い転げる夏々を指差して怒る穐継と溜め息を吐く終冬。楽しそうだなあとチラ見し、もう一度画面をタップする。画面いっぱいに広がる映像を機械に内蔵された映写機が宙へ映し出す。さすが夏式家が作り出した最新モデル。スマートフォンが有する一般的機能に加え、ハイテクだなあと感想を抱き、ごろりと仰向けになる。

「ところで皆クリスマスは? 名門のご家庭はこの行事に乗じてパーティやら企業戦略やらで忙しいでしょ」
「この季節、幸せオーラと同じくらい負のオーラが漂うから呪術の材料にするため引き篭りよぉ」
「クリスマスの歴史から作法まで奴隷たちに叩き込むのに忙しい」
「3人が来ないのに行ってもつまんねーからサボった」

 この言い方。四式を招くパーティがあったのだろう。3匹揃って欠席を選んだのは春式家を代表して出席する分家の長子を認めないという意思表示か。そういうことをしたら後々困るのは自分たちだというのに頑固だなあと呆れる。しかし、自分が3匹の立場であったらきっと同じようなことをするので叱ることはできない。

「ところで、はっちゃん」
「んー?」
「なんであの従者に休みをとらせたんだ? 去年まで普通に仕事させてたじゃん」
「今年で18歳になるし、そろそろ強硬手段でお見合いさせられそうだなあと思ったの。例えばクリスマスパーティとかに乗じて」
「従者くんがいたら欠席もしにくいってか」
「……まあ、それは建前なのだけれどね」

 18歳になったということは臣だって同じだけ年を重ねているということ。彼くらいの男なら今頃恋人がいて、楽しく青春を走って、これから築く家庭に目を向けてもおかしくない。だが、その噂1つたたないのはそうである時間を全て初陽に費やしているからだ。つまり、傍からみれば限りある時間のほとんどを仕事に尽くしているというわけで。
 という内容を屋敷の使用人が話しているのを偶然聞いてしまった初陽は確かにと思ったのだ。きっと臣が聞けば、確かに仕事だから納得していない相手でも必要なことはこなす。けれど、納得していない相手ならばオフの日にまで傍にいようとはしない。それをするのは初陽が相手だから。と、鼻をならしくだらない話を蹴散らすのだろう。それが分からないほど初陽は鈍くないし、臣は分かりにくくない。

「だからこそなの。こういう行事で臣が絶対に一緒にいてくれるとは限らないじゃない。彼は私と違って自由なのだから。いつか臣がクリスマスを一緒に過ごす人ができたとき、1人でいることに慣れておこうかなと思って」
「え。はるさん今更彼にそういうこと考える?」
「空回っている気がするのは私だけかしらぁ?」
「満場一致の意見だから安心しろ」

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