幸せが降る夜に

「じゃあサンタクロースらしくプレゼント渡さないとな」
「1人寂しくクリスマスを迎えようとしてる私と一緒にいてくれることがプレゼントじゃないの?」
「それは当たり前のことだからな」
「……臣、いつもにも増して言葉がストレートすぎでは」
「そうか?」

 いつも通りと言われてしまえばその通りの気もするし、どうにもストレートな言葉が落ち着かないのはクリスマスマジックがあるからだろうか。そわそわとし、目線を彷徨わせる。空になったカップを無意味に手にしてみたり、つま先を重ねて重ねて地面に押し付けてみたり。
 そんな初陽に首を傾げる臣だが、その真意を汲み取ることまではできず。シャンパン、ケーキ、グラスと今までに出した物の中で1番丁寧にラッピングされた可愛らしい袋を出す。それを両手で受け取った初陽は開けていいの?と目で問いかける。にんまり笑って頷く臣はプレゼントに相当自信があるのだろう。その自信が伝わってくるのだから、開けるのも当然楽しみとなるもの。

「櫛?」
「最初は髪飾りも考えたけど、どういう髪型にしてもそのリボンで結わえていること考えたら違うなと思ったんだよな」
「……そうね」
「だったら次に欠かせないものにしようと思って」

 椿油とセットでつめられていた木製の櫛。確か、使えば使うほど刻まれた模様が濃くなるとか。話には聞いていたが、実物を見るのは初めてでまじまじと眺める。普段使いをしているのはブラシなのだから尚のこと新鮮に感じる。
 臣の話を聞き、白い髪に編み込んでいる青と赤のリボンに目を向ける。確かに初陽にとってこれは手放せないものである。はて、その話を臣にしただろうかと首を傾げる。それを察した臣は柔らかく笑い「毎日見てれば分かる」と。

「ねえ、臣」
「んー?」
「櫛ってさ」

 苦死の意味を持つから贈り物には不吉と言われているのと同時に、苦しいときを共に乗り越え死まで添い遂げたいの意味を込めて渡すとも言うわよね。
 喉元まで出かかる言葉を飲み込む。捉えかたによってはプロポーズのようで夢のある話だが、立場を考えれば主人と従者としてという意味が現実的だろう。小さく頭を横に振り、へらりと力を抜けた笑みを浮かべる。

「ううん、なんでもない。ありがとう。大切に使うね」
「おう、どういたしまして。まあ、扱うのは俺だけどな」
「そうね。私の髪の手入れ、臣がしてくれるものね」

 じゃあ、今日も寝る前にお願いしようかしら。そう頬を緩めて言えば、当然と頷かれる。
 それではこれはその時のお楽しみにと席を立ち、2点の贈り物をドレッサーに置く。そして、引き出しに閉まっていた小さな箱を手に取る。

「本当は今日渡す予定じゃなかったのよ」
「……これ、いつ買いに行ったんだ?」
「臣の知らない抜け道はまだあるってことよ」

 箱を開けば柔らかな緑色の石と透き通ったピンクの石が埋められた指輪。ここ数ヶ月ついて行った買い物でこのようなものが売っている店に入る姿を見たことがない。眉間に皺を寄せて問えば、ドヤ顔でふふんと笑われる。

「なあ、はつ」
「臣のネックレス、リング通してるときあるでしょ。ああいう風になら身につけやすいかなって」
「ああ、なるほどね」

 指輪がプレゼントってまるでさ。といった類の言葉が出てくる前に早口で言い切る。そこまで一息に言われてしまえば追求もできるわけなく、頷くだけになる。
 それにしても。と、指輪に埋め込められた石にまるで春のような彩りのようだと目を細める。それを見て、初陽はふんわりと微笑む。

「臣にも春の恩恵がありますように」
「クリスマスに春の願い事かあ」
「だから言ったでしょう。クリスマス当日に渡すつもりはなかったって」
「クリスマス終えたら年末年始だぞ」
「雪解けの頃のつもりだったの」

 ぷくりと頬を膨らませる。カラカラと笑って頬をつつけばぷしゅうと空気を抜く。そのやりとりにおかしくなり、2匹は笑い合う。
 無機質な時間を過ごすかと思いきや、 温かさに溢れる夜となった聖なる日。
廊下に笑い声が漏れ、屋敷の者に見つからないように距離を縮めて密やかに楽しむ。粉雪のように小さな幸せを噛み締めていた。だが。

「……はつさん。通話切らずに行ったの絶対忘れてるよね」
「それに気付いておきながらこちらから切ることをしないなんて酷い男たちだわぁ」
「じゃああきちゃまが切ってやりなよ」
「嫌よぉ。久しぶりに幸せそうな初陽が見れているというのにぃ」
「これを将来作る日が来てほしいメモリアル動画の素材にするからな」
「盗撮魔かよ」

 まさか、夕方から繋げていた通話を切らずに物音を確認しに行き、そのまま臣と合流したため全てが筒抜けであった。
 それを知るのはクリスマスを満喫し、日を跨ぐからと臣に寝かしつけられた後のこと。寝返りをうち、下敷きになったディバイスを手に取ったときのこと。通話時間を目にし、マイクがミュートされていなかったことに気付いてしまった。
 昔から知る仲たちにあのような噛めば甘さが染みでるようなやりとりを聞かれていたと思えば顔から火が出るほど恥ずかしいもの。思わず悲鳴をあげ、幸せな気持ちが霧散しかけるような思いになるのであった。

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