グツグツと音を立てて、空腹を煽る良い香りが室内を満たす。色鮮やかな赤が茶に染まる頃には食欲が最高潮となる。
大人たちはグラスいっぱいまで泡がたったビールを手に持ち、子どもたちはオレンジジュースを両手に持つ。当然、ビールの苦味が不得手な人もいるため日本酒焼酎葡萄酒と選り取りみどり。
年越しすき焼き。恒例であるが、今年はいつもと違う存在があった。そわそわ。ちらちら。落ち着きのない視線は控えめ時々不躾にフブキの隣に集まる。
「えー、それでは大黒柱の私が音頭をとろうと」
「はい、乾杯」
「シグレくん酷くない?!」
「ミグくん。お肉早く確保しておかないと一瞬でなくなるよ。うち、年齢問わず食べ盛りな男しかいないから」
「フブキちゃんも無視するの?!」
咳払いをし、立ち上がるのは家主でありシグレとフブキの父親。既にできあがっているのかと言いたくなるようなうきうき気分で語り始めようとしていた。そこをすかさず遮り、乾杯の音頭をとるのはシグレであった。それを合図に両手を合わせて食前の挨拶をすれば一斉に箸が伸びる。
大所帯ならではの勢いに圧倒されていたミグは箸を伸ばすタイミングに悩んでいると、フブキが手馴れた手つきで肉を中心に煮込まれた具材を盛る。
そんな我が子2人の塩対応に涙ぐむ父親であるが、フブキの行動に「お嫁さんなりたての母さんみたいだなあ」と。にやつく。すかさず「え、何それうざい」冷たい言葉を突き刺す。
「シグレくん、フブキちゃんが冷たいよ!」
「酒を飲まずしてできあがっている父親を見れば冷たくもなる。ここから先どんどんうざ絡みをされることを考えればな」
「可愛い娘が彼氏を連れてきたらお父さんのテンション爆上がりも当然だと思わない?!」
「ミグくん。うざければいつでもうざいって言っていいよ」
「いやあ。さすがにそれは無理ですよ」
みるみるうちになくなっていく肉を眺めながら、フブキが皿にとっておいてくれた肉を卵に絡め、頬張る。隙あらば、父親に絡まれ、グラスを空けてしまえば酒を注がれそうになる。その度にフブキが「未成年に注ぐなつってんでしょうが」と。舌打ちをし、横からそのグラスをとって飲み干す。
フブキさんもまだ未成年のはずだったようなという考えが一瞬過ぎるが、顔色一つ変えずにいるのだから飲み慣れていることを察して黙る。
「フブキも未成年だろ」
「ここはフブキさんの実家だからいいんですー。すずらん、統芯。好き嫌いせず椎茸食べなさい」
「うええ、しいたけやだあ。ひまちゃん、あーん」
「ねぎやだ。ひまわり」
「あーん。ん、おいしー。じゃあ2人にはお豆腐あーん」
「こら、ひまわり。甘やかさないの」
シグレから飛んでくる注意にべぇっと舌を出して跳ね除ける。かと思えばこっそりと苦手な食べ物を避けようとする子どもたちを叱る。その間に綺麗なグラスにお茶を注いでミグに手渡す。
末っ子の言動をしているけど、やっていることはしっかり者さんですよねぇ。などと、フブキを観察しながは受け取ったお茶で喉を潤す。
「ミグさん、ご飯足りています? よろしければよそいますよ」
「あー、そうですね」
「よその家だからって遠慮しなくていいよ。家族の身内は皆家族で馴れ馴れしいし」
「……みたいですね。じゃあ、お願いします」
苺色の髪を揺らし、ひょこりと顔を覗かれる。空になった茶碗を指さして投げられた問いかけに悩む。遠慮する控えめな性格をしているわけではないが、さすがに彼女の両親がいる家で無遠慮になるのもどうだろうかと躊躇いはする。
すると、苺色の髪に重なるように白群色の髪をした男が反対側から顔を覗き込んでくる。それならばとおかわりをお願いする。茶碗に山のようによそわれる白米を見ながら、顔の良い2匹にミグは記憶を辿る。確か苺花と流生といったか。そして、なるほど。あの有名な救助隊の広告塔としてどこへでも顔を見かけるだけあって見栄えからして良いと納得をする。
「それじゃあ酒で身体もあったまってきたことだし、2人の馴れ初めでも!」
「青花、お父さんの口封じて」
「分かったよ。お庭にでも埋めておくね」
お父さんの味方は!? と。嘆く姿をさすがに可哀想と思ったミグがふくれっ面のフブキを宥める。そうすれば当然、この年越し宴会のスタートよりも前。ミグがフブキの実家に来た時点でアクセルを踏み切った勢いで馴れ馴れしい父親が長子に乗るのも当然のことで。
「優しいミグくんには父さんと母さんの馴れ初めを聞いてもらおう!」
「これ、毎年熱弁されることだから面倒になったらスルーしていいよ〜」
「あ、はい」
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