秘め事は年越せず

ギィコ。ギィコ。
鎖が錆ついているのか、耳に残る音が鳴る。鮮やかな青色に塗られていたのであろう木製の座板はところどころ色が剥げていることから、随分と古いものなのであろう。
座板から地面までの距離はそれなりにあり、ミグが座っても低いとあまり感じない。当時このブランコを使っていたのであろうシグレやフブキにはさぞかし高かっただろう。

「はい、甘酒。身体温まるよ」
「ありがとうございます」
「お父さん、煩くてしつこかったでしょ。ごめんね〜」

 鼻先と頬を赤く染めたフブキが湯気をたたせた甘酒を渡す。受け取ると、コップを通して指先からじんわりと温まる。コップを口元に近付けると、甘酒独特の香りが鼻腔をくすぐる。流し込めば口腔内にじわっと甘味が広がり、喉を通ればそこから身体が温まっていく。ほっと一息をつき、身体の力を抜く。ミグの様子を観察していたフブキはブランコの支柱にもたれかかり、同じように甘酒を飲み始める。
 ブランコのある庭からは寒空を装飾する星々がよく見え、恋人2人で楽しむというのはとてもロマンチックに思われる。しかし、BGMとしてリビングから聞こえてくるどんちゃん騒ぎでそんな雰囲気は微塵にもない。よく聞こえてくるのはフブキの父親の声。明るくて何でも楽しく喋るような彼に対し、今日のフブキはあまり見かけない冷たい振る舞いだったなという感想を抱いた。しかし、思い返すとそれにもめげずに構い倒してい来る父親の姿はどう見ても日頃のフブキと一致していた。特に楽しそうと思えば相手のことをお構いなしに絡み続けるところとか。そう思うと自然と笑いが零れてきた。

「何か面白いことあった?」
「いやあ。フブキさん、お父さんとよく似ているなと思って」
「えー」
「身内の家族は身内だって俺の手持ちを構い倒すときのフブキさんだなあって」
「あ、あー……」

 心当たりは十分にあるらしい。ミグの言葉にフブキは目を逸らし、意味のなさない声で唸っていた。あれだけ父親に冷たく当たっていただけあって、改めて指摘されるのは恥ずかしいようだ。
 少しの間黙り込む。それから「尊敬はしているのだけどね」と。ミグの方を見て苦笑いを浮かべる。扱い辛くて可愛げのない子どもであったにも関わらず、全力で愛情を注いで好き勝手させてくれたこと。放任と思いきややたらと過保護でモンスターペアレントと呼ばれても構わないと全力で守る姿勢を見せてくれたことをぽつりぽつりと喋り、深い溜め息を吐いた。

「フブキもおにぃもポケモンだけが友達みたいなものだったし、人間との付き合いを見れていつも以上にはしゃいでた感じだよ」
「あれ、フブキさんってトレーナー付き合いは多い方ですよね」
「わざわざ家に招かないよ。恋人とかなれば尚更。というかミグくんを招く予定もなかったし」
「あー、それで気になったんですけど……両親に俺と付き合っていること隠してました?」
「うん」

 食い気味の即答に目を丸める。それから今日の一連の出来事を思い出す。
 フブキの誕生日で会ったばかりだが、1年の最後に少しでも会えたらという気分になっていた。しかし、毎年家族と楽しく過ごしている話を聞いていたからどうしようかと思っていたら、今年は日中は暇だからどうかとフブキ自ら誘いの連絡が届いた。だからシンオウ地方に足を運びデートをしていた。そこでシグレと買い出しに来ていた彼女の父親に遭遇した。あのとき「わざわざ別の街に来てデートしていたのになんで!!」と。腹から声を出した叫びと驚愕の表情は思春期の娘という様子で微笑ましかった。そしてミグの意思も拒否権もないという勢いで父親に連れられてフブキの実家に訪ることに。彼女の母親には開口一番で「フブキちゃんに彼氏ができたって本当のことだったのね! お父さんの見間違いだと思っていたわ!」という驚きの言葉を聞いた。
 やはり隠されていたから出てきたものだったのだと理解する。恋人となってそれなりに年月が経っているが知られたくなかったのだろうか。そこら辺はフブキの自由にすればいいと思っているし、とやかく言うつもりは毛頭ないが本人の口から肯定するとへこむところがあるのもまた事実。好きなものは隠さず直球で伝えるフブキだからこそというのもあるが。

「俺のこと隠してたんですかあ」
「だってバレたら連れてこいって煩いんだもん」
「見せたくない彼氏ですか?」
「え、彼氏として自慢したいくらいだけど」

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