再び食い気味の即答が返ってくる。何言っているの。どういう発想すればそうなるの。意味不明。とでも言いたげな表情を加えて。この時点でフブキがミグのことを両親に隠していたのはどうしてかとマイナス方面で考えることを放棄した。
しかし、気になることに変わりはないので素直に聞くことにした。フブキはというと、隠してたと言われたらそう聞かれるよね〜などと考え、ミグの顔を見る。それから頬をかき、困ったように笑って話す。
「……だってミグくん、こういうの苦手そう」
「あそこまで大所帯で賑やかなのはめったにないですが、そこまで苦手というわけではないですよ?」
「そこじゃなくてさあ。彼女の両親と対面して挨拶とかそういうのだよ。実家にご招待とか嫌がりそうなタイプじゃん」
「あー、確かに。家族で外堀埋められる感じは嫌ですよね」
「ほらやっぱり!だから隠してたのにな〜」
両親への挨拶イコール結婚前提にするために外堀を埋めている。特に彼女の方から彼氏に両親への挨拶を促すのはそういう意図を含めている。大学時代から虎視眈々とシグレを狙い、それを隠すこともせず遊びにくる女。フブキが最も敵視するイミリがその典型的な例であるため、フブキはああはなるまい。そしてミグにそう思われるようなことは絶対避ける。特に身内大好き、我が子のポケモンそして恋人も我が子同然で甘やかすような両親なのだからそういう意図がなくてもミグを将来フブキの旦那様はぁとみたいな話題を出しかねないと危惧していた。
ミグの女性遍歴をそれなりに知り、フブキのことは過去の人と比べたらかなり特別に扱われているであろうことはこの数年で理解してきた。が、お世辞にも一途で誠実という恋愛をしてきたわけではなかろう彼が。そして今もトレジャーハンターとして地方を飛び回って満喫している彼が。結婚とか家庭に収まるとかそういう類の話を得意としないであろう。そういうのを押し付けられたら息苦しくなり、しばらくの間距離を置きかねないだろう。
その場に蹲り、そういうことを考えていたから家に招きたくなかったのになあと嘆く。納得もしたし、確かに今までの自分であればそうなりかねない。さすがフブキさんだなあ。そういうところをさらけ出して教えてくれるなんて。やはり直球だ。小さく笑い、ブランコを揺らすのをやめる。小さな身体を更に小さくして丸くなっているフブキの前にしゃがみ込めば、それに気付いたフブキも顔をあげる。若干涙で潤んでいる目に緩んだ顔をしたミグが映っていた。
「フブキさんの御両親に紹介されたの、嫌じゃなかったですよ」
「…………」
「というか、青花さんたちに会ってるから抵抗はそんなにないですよね」
「そうなの?」
「青花さんと赤羽さんの方が威圧を感じますしね、未だに」
「未だにかあ」
「未だにですねえ」
青花はともかく赤羽もだったんだあ。付き合う前の頃はもっと凄かったですよ。え、知らない。敵意通り越して殺意で刺されている気分でした。やだ、うちの子可愛いすぎ。
会話が脱線する。しかし、思わぬところで暴露される我が子の行動にフブキがでれっでれの表情で悶えているので改めて戻そうという気にもならない。
「フブキ、すごく愛されてきたからね。ご迷惑をかけました」
「開き直って堂々言えるところが凄いですよね」
「開き直りついでにうちの子たちの可愛さ語ってもいいよ」
「百面相するフブキさんの顔が見れるので悪くない話ですが、それ夜が明けても終わりませんよね」
ふはっと声をあげて笑うミグにフブキは肩の力を抜く。説明すれば分かってはくれるだろうけれど、それとこれは別として両親と顔を合わせたことで変なプレッシャーを押し付けていないかと心配していた。そうではないことを確認でき、安心をしたのだ。
ミグにつられて声をあげて笑う。それから前に体重をかけ、ぽすんとミグの肩に頭を押し付ける。
「あ、今日は寝かせないからね〜」
「ご実家でだなんてフブキさんも大胆になりましたね!」
「そういう意味で言ったんじゃないの!」
「えー、どういう意味で捉えたんですかあ?俺まだ何も言ってないですよ?」
にやにやと笑って指摘されれば、ぶわりと顔を赤くする。こういう風に白い肌が染まる瞬間は何度見てもいいものだと目を細め、指先でなぞる。甘酒で温まったとはいえ、やはり冬の気温で冷たさを残す指先に肩を揺らし、きゅうと目を瞑る。フブキにはそのつもりがないだろうが、男からすればどう見てもキス待ちと捉えたい顔をしている。好きな女の子がこういう顔をしていたら仕方がないですよねーと周囲を見渡し、人がいないことを確認したら触れるだけの軽いキスをする。
唇にあたった柔らかい感触にフブキは驚き、思わず目を開ける。そのときにはミグの唇は離れており、にんまりと意地悪な笑みが向けられていた。ここは庭で、自分たち以外は皆家の中とは言え実家で彼氏をキスをした。羞恥心を駆り立てるには十分なものであった。ぐるぐると目を回したフブキはバチンと音を立ててミグの両頬を挟み、口走る。
「姫はじめは1月2日にするものでしょ! 元旦終えたら一緒にあっちの家帰るからその後!」
「あれ、それまでこちらに泊まること決定ですか?」
「もう知らないもん!お父さんとお母さんに絡まれてても手助けしないから自分でなんとかしてね!」
オクタンのように茹で上がった顔をしてめったに聞かれない誘いの言葉を暴投する。1度言ってしまえば撤回できないのだからと腹を括ったのか、それともヤケになったのか。きっと睨み付けながら必死な様子なので、ミグは分かりましたと両頬を挟むフブキの手に擦り寄って頷く。
これはもう何を言ってもミグくんは嬉しそうな顔をするのだろう。家族勢揃いの場でキス以上のことをされることはないからこそ、言葉で何を言われるか分からない。照れ死ぬ自信がある。それだけは回避せねばとフブキはミグの手を引っ張り立ち上がる。
「いやあ、フブキさんから姫はじめに誘われたのだからやる気出さないとなあ」
「もう、もう!寒いから家の中に戻るよ!」
「え、フブキさんの手、すっごく熱いですけど」
「いいから!フブキの心の安定のために戻って!」
「あはは。本当、フブキさんは照れ屋で可愛いですよね」
「ミグくんのばかあ!」
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