大食い、欲張り、肉食系

「雨藍とあの眼鏡彼氏ってさ。付き合って何年かするのに全然変わらないよね」
「何急に。変わらず仲良いっていうのはいいことじゃん」
「仲とかじゃない」
「じゃあ何」
「       」

 カラン。コロン。石畳を叩く下駄の音が心地よい。
 下駄で歩くことは慣れているけれど、履き慣れたものではない上、膝下からくるぶしまで覆う着物のせいで歩き辛さを覚える。転ばないように、裾を踏まないようにと慎重になりながらも待ち合わせ時間に遅れないよう早歩きになる雨藍。本当ならば着付けをしても余裕のある時間に出られるはずだったのに、出る直前に余計なことを吹き込んできた紅羽のせいで遅れそうだと頬を膨らませる。

「要さんより早くつきたいのに……!」

 これで遅れたら今年もおせち料理のメインディッシュをチキン系にしてやる! と、腹を立てながら神社に到着し、要を探し始める。年が明けて数時間経ったとはいえ、まだ夜が明けたばかりなだけある。雨藍たちと同じく初詣目的で訪れている人もポケモンも多く、人探しが困難だ。
 まだ到着していないのだろうか。それとも先に到着しているけれどこの混雑だから見つかっていないのだろうか。待ち合わせ場所を神社にしたのは間違いだったかなと肩を落とす。少し待って、それでも合流できなければ電話でもしようかなと鳥居近くで待機をする。

「雨藍ちゃん、先についていたんだね」
「要さん!」

 とんとんと肩を叩かれ、振り返る。見慣れたジャージ姿、ではなく。ハイネックにロングコートと冬の温かな装いをした要。着膨れしていることもなくスマートだ。惚れた弱み。恋人の贔屓。恋する乙女のフィルター。普段と装いが違うというだけで6割増しに格好良く見えるのは仕方がないこと。雨藍は目を輝かせ、嬉しそうに笑う。

「待たせた?」
「ううん。ちょうど今来たところ」
「そのわりには手が冷たいけど」
「もともと変温動物な種族だからね。外が冷たければあっという間に体温が下がるの」

 飼い主が帰ってきて喜んだ犬ポケモンが尻尾を千切れんばかりに振るような喜び方をする雨藍に明け方なのに元気だなあと和む。それから、いつもと違う着物姿や可愛らしくまとめられた髪型から初詣デートに気合いを入れていることが分かり、どこから褒めようかと観察をする。そこで、雨藍の鼻先や指先がほんのりと赤色に染まっていることに気付き、やはり待たせたのではなかろうかと手に触れた。
 指先から伝わる冷感に吃驚して目を丸めるが、嬉しそうに手を握り返してながら再度そんなに待っていないという話を聞いて納得をする。そういえば冬になる度にそういう話をしているなあと今までの会話を思い返し、要はそれじゃあしっかり温めないとねと笑って少し力を込めて握る。

「とはいえ、要さんも氷タイプだから手が冷たい方だけどね」
「手が冷たいほど心は温かいって言うよね〜」
「つまり夏の私は心が冷たいと?」
「夏の雨藍ちゃんは冷たいというより死にかけてるよね。梅雨の時期を越えると」
「からっとした暑さは苦手だからねえ。乾くし」

 種族としての特性が良くも悪くも全面的に出ているからだろう。体温調節苦手なのが良い例だ。夏はぐってりと倒れこみ、冬は今にも冬眠しそうな雨藍の様子を思い出し、要は笑う。
 そのわりに舌は長くないよねと笑えば、人と比べたら長い方なんじゃないかな言い、んべっと赤い舌を出して見せた。本当だと要が出された舌をまじまじと見ていると、さすがに恥ずかしくなってきた雨藍は舌を引っ込め、左手で口を覆い隠す。

「おしまい!」
「えー。あまり見えなかったからもう1回」
「要さん、それ嘘でしょう。意地悪言いたいだけでしょう!」
「最近照れた顔を見る機会が減ったからね」
「さすがに手を繋ぐだけで照れ照れするほど初々しくありません」

 要は屈み、雨藍の顔を覗き込む。にんまりとした意地悪な笑みを浮かべて言われるものだから、雨藍はふくれっ面で顔を逸らした。それから拗ねた声色で突っぱねる。が、すぐに焦った様子で「……慣れた私は嫌だ?」と。おずおずと問いかける。

「手を繋ぐくらいでどやってる間はまだまだかなあ」
「これでまだまだだなんて、先は遠いなあ……」

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