手水舎で身を清め、長蛇を成す列に並ぶ。参拝までどれくらいあるだろうと雨藍は背伸びをしたり、人の頭と頭の間から覗こうと落ち着きのない様子。まるで初めて来た場所にはしゃぐ子どものようだと要が笑っていると、それを察した雨藍はむすうと唇を尖らせる。
「だって本当に初めてなんだもん」
「え、初詣そのものが?」
「あの診療所の面子で行くと思う?」
日頃から診療所にいる顔ぶれを思い返す。志寿、夢子、紅羽、雨藍、緑茶。なるほど。行事に乗りたいからと行きたがりそうなのは雨藍くらいで、その面子だと面倒臭いの理由で拒否するのが目に見えているから誘うことすらしないのだろう。要は納得をする。そして、百歩譲って夢子くらいならば優しさから付き合いそうな顔をしているが……と考え込むが、あまり関わりのないポケモンなので第一印象からでは想像ができなかった。
「じゃあ参拝のときの作法とかは知ってる?」
「拍手して礼をするっていうのは聞くけど、順番分かんない」
「二礼二拍手一礼のこと?」
「そう、それ!」
手水舎のこと。入るときは鳥居をくぐる前、出ていくときは鳥居をくぐった後に一礼すること。参道の中央は神様の通り道だから渡ってはいけないこと。
これでも一応勉強はしてきたんだよ!と意気揚々と話すものだから、知ったばかりのことを 言いふらしたいんだろうなあと和む。そして、しょんぼりとして「ここまでは分かるけど、その二礼二拍手一礼がややこしい」と。
「鈴を鳴らして神様を呼び、敬意と感謝を込めて二礼。それから和合の意味を込めて二拍手。挨拶と感謝を伝えてから一礼。って中身を知れば覚えやすいんじゃないかな?」
「…………」
「雨藍ちゃん。顔が面白いことになってる」
「要さんがインテリメガネみたいなことを言ってるから驚いて」
「インテリメガネって」
直球で失礼なことを言うなあと苦笑いを浮かべる。雨藍はしまったという表情をしてからぺろっと舌を出して「いつもはおばかトリオって感じだから」と。言ってくれるなあと撫でまわそうと雨藍の頭に手を置くが、着物に似合う華やかな髪型を崩すのは忍びないと手を止める。要の気遣いを理解した雨藍はにこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべ、頭に置かれた手をとる。そして頬に寄せ、ごろごろと擦り寄る。
付き合った当初は触れるだけで心臓が止まるから! と騒いでいた雨藍からは想像できない積極的な行動に要は目を細めて見守る。どれくらいかして、満足した雨藍はそのまま手を恋人繋ぎで握り直し、脱線しかけた会話を戻す。
「あれ、お願い事はいつするの?」
「初詣イコール神様にお願いするって思われてるけど、実際は1年の感謝を述べる場なんだよ」
「そうなんだ……」
「感謝のついでに1つくらいならいいと思うけどな。雨藍ちゃん、何か頼みたいことあるの?」
「うん。要さんのことでちょっと」
雑談の中に放り込む。そっかあと相槌を打っていた要は「ん? 俺の事?」と雨藍の言葉に引っかかり、首を傾げる。殺し屋なんて危険が常に伴う仕事だから安全とかそういうことだろうかと雨藍に聞こうと視線をやると、真剣な表情でぶつぶつと呟いていた。
考え事に集中していた雨藍は要の視線に気付くことはなく、出かける直前に紅羽としたやり取りを思い出す。あれだけ好き勝手言われたら煽られるしかないじゃない。見てろよ、目にものを見せてやる。ただ、ちょっと自信がないから神頼みもするけど。ぐるぐると思考に悩ませる。
ふと、視線を要に目を向ければ、ばちっと視線が合う。要がにこっと笑うため、雨藍もつられてへなっと頬を緩める。
「そういえばお賽銭って5円玉の方がいいの? ご縁がありますようにの意味があるっていうのと、5円玉の穴からご縁が通り抜けるから良くないっていうの両方聞くんだけど」
「え。あー、どっちでもいいんじゃないかな。信じてる方にすれば」
「そっかあ。うーん、どうしようかなあ」
「欲しい縁あるの?」
「恋愛は要さん以外いらないし。お友達も照くんや結くんたちいるもんね。強いて言うなら診療所に人手がほしい……あー、でも絶妙なバランスで保ててるようなものだしなあ。うん。ご縁よりもお願いごと叶えるために力を貸してもらうという意味で奮発するね!」
「さっき言ってた俺のことで?」
「そう。要さんのことで」
さっきも言っていたけれど、それってどういうことか。問いかけようとしたが、参拝の順番が回ってきてたため会話が中断される。後ろにも列は連なっているため、質問は後にしようと鈴を鳴らした。
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