大食い、欲張り、肉食系

 深呼吸をして気を紛らわせたつもりなのだろうが、唐揚げが入った紙コップを持つ手に力が込められていることを要は見逃さなかった。虐めたいわけではないが、必死に頑張っているけれど、ぷるぷると震えを隠せていない姿が小動物のようで意地悪はしたくなる。
 着物に似合うように髪があげられているため、いつも隠れている項が露わになっている。装いを変えてもいつものピンクのチョーカーを身に着けているから肝心な部分は覆われているが、いつもよりは無防備だ。手を伸ばし、するりとチョーカーをなぞる。びくっと身体を震わせ、目をきゅうっと瞑る雨藍に「ふうん」と。相槌を打てば、雨藍は負けじと言葉を続ける。

「ね。要さんの嫌がることでしょう」
「嫌とは言ってないけどなあ」
「でも歓迎もできない」

 雨藍は人差し指で自分の口角をつんつんと指差す。その仕草につられ、要も同じように人差し指で自分の口角に触れる。そして気付く。いつもへらへらと緩んでいる口角が下がっていることを。なるほど。これで判断されたのかとため息を1つ吐く。
 そんな要の様子に雨藍は考える。いつものメンバーでいるときは箸が転がるだけでも笑えてくるくらい面白おかしい時間を過ごしているから笑っている。雨藍といるときは基本的に微笑ましい和むという気持ちがついて回っているから笑っている。他人と関わるときは関心がないからこそへらへらと笑って流している。一見同じ笑顔を常に貼り付けているように見えて、実は違うのだから意識して常に笑顔でいようとしているわけではないのだろう。だから、悪い意味で琴線に触れてしまえば本人も無自覚のうちに笑顔がなくなるのではないかという考えはどうやら正解だったらしい、と。

「今が幸せで満足しているなら改まって知る必要もないと思うけど」
「必要はなくても意味はある」
「意味、ね」
「要さんにもっと近付けると思えば、十分意味のあることでしょ?」

 とはいえ。要からすれば過去について聞かれても記憶がないのだから答えようがない。そんなこと言った日には、じゃあ要さんのルーツを探してみよう! と言い出しかねない勢いだ。今の雨藍ちゃんなら言いかねないなと要は悩む。そしてふと疑問に思う。何故今更そういうことを思い始めたのか。もしもこの話題が要にとって地雷で、じゃあ雨藍ちゃんの過去も余すことなく話してよ。などと言った日には恐らくダメージを受けるのは彼女の方だろうに。
 要の頬に穴が開き程そうな真剣に見つめ続けてくる雨藍の顔を見て、俺がそういうことをするわけがないと信頼した上でなんだろうなあと両手を挙げ、降参のポーズをとって質問する。

「急にどうしてそう思ったの?」
「紅羽に言われたの。付き合って何年かするのに全然変わってない。距離が変わってない。溝があるみたいだねって。腹立たしいけれど、なるほど確かにって思った。私、要さんのこと知ってるようで意外と何も知らないなあって」
「うーん。それは結構欲張りだなあ」
「そう。私、欲張りだし容赦も遠慮もしないの。紅羽に対する態度見てたら分かるでしょう?」
 自分で言うのもなんだけれど、紅羽に対しては結構苛烈だと思うよ。と、笑う雨藍は要から目を逸らし、止めていた足を再び動かし始める。唐揚げを串に刺し、もぐっと頬張り、あと伝えていないことは何だろうと考える。その間に沈黙が続くと、ようやく和らいできた緊張がぶり返してきそうなのでつらつらと頭に浮かんだ言葉を並べる。

「要さんは初めて好きになった人で、大切な恋人だから控えめであった自覚はあるわけですよ。そりゃあ、恋人には少しでも可愛いと思われたいし。でも、これからもずっと一緒にいたいのに付き合い始めたときから距離が変わってないのも不満なわけで」
「えー。随分と変わったと思うけどなあ。ほら、雨藍ちゃんも大分慣れてきたし、前よりもずっと仲良くなってるわけだし」
「ミステリアスな要さんも勿論格好良くて好きだけど、もう少し暴きたくなるよね」

 へらへらした笑みが剥がせば、人生イージーモードとぶっこいてる余裕を崩れるかもと思ったらちょっぴりわくわくするしね。
 などと言うことを口にし、雨藍はくるりと振り返る。浮かべている笑顔は戦闘中に獲物を狩るときに浮かべているときのものと同一のもの。要の脳裏に一瞬よぎるのは1度だけ見かけたことのある、入念にトラップを仕掛けて狩りという名の襲撃者を捕らえようとしている雨藍の姿である。あ、これ狩られる。頬をひくっと引きつらせたのも仕方がないだろう。

「雨藍ちゃん。いつの間に肉食系になったの」
「え、蛙系のポケモンもとから肉食だよ」

 ぱくり。最後の1つとなった唐揚げを丸々一口で食べる。それから今更何言ってるのと笑う雨藍を見た要はなるほどと苦笑いを浮かべるしかなかった。

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