大食い、欲張り、肉食系

「屋台って素晴らしい……!」
「ふはっ。そんなに目を輝かせて言うほどなの」
「要さんは照くんたちと行き慣れているかもしれないけれど、私にとっては初めてなの!」
「お祭りとかも行かない?」
「私たちって混雑しているところは得意じゃないの。私と紅羽は脱走しているポケモンだから当然のこと。志寿様は伝説に語られるポケモンだし、緑茶は面倒だの一点張りだし」

 たこ焼き。たません。チーズハットドック。チョコバナナ。フルーツ飴。その他もろもろ。神社に展開されている屋台を端から端へと制覇する勢いで買っては食べを繰り返す雨藍は幸せに満たされた顔をしていた。
 日頃、要とのデートでもよく食べるがその比にならないくらいの様子に思わず笑いが零れる。なるほど。以前紅羽の前では遠慮も容赦もなく買い食いをすると聞いていたがこれほどだったのか。そういう姿を見せてほしいと言ったから我慢することをやめたのか、それとも初めての初詣に屋台とおおはしゃぎしているのか。全力で食べ物に意識を傾けているせいではぐれかねない雨藍の手をしっかり繋ぐ。

「はっ、唐揚げもある!」
「雨藍ちゃんの作る唐揚げの方が美味しそうだけどなあ」
「でも、ああいう串刺しにされている唐揚げだと分けっこして食べれそうだよ」
「分けっこがしたいの?」
「うん。要さんと一緒に食べたい」

 にへらと締まりのない顔をして唐揚げの屋台を指さす。美味しい食べ物に囲まれて幸せそうな顔をしているのかと思いきや、要さんと一緒だからと幸せなのだと隠しもしない素直な言葉に要は笑顔のまま固まる。
 恋人に喜んでもらおうと一生懸命になって頑張る姿もいじらしくて良いが、何も考えずに口にする言葉で刺してくるよね。うん、雨藍ちゃんってそういうところある。頷きながら自分の財布を開こうとする要に雨藍は慌てて止める。

「私が食べたいものを自分で勝手要さんと分けっこしたいの」
「雨藍ちゃんって将来貢がせ上手になると思うよ」
「既に貢ぎ癖ある要さんが言う!?」
「幸せそうに食べるからついつい食べさせたくなるんだよねー」

 たくさん食べていることに対して引かれないのは嬉しいが、その貢ぎ癖が心配な今日この頃。まあ、今に始まった話じゃないけれど。などと、ぼやきながら唐揚げを買いに行く。唐揚げを買ったところで手が塞がり、打ち止め。食べ歩きながら帰ることにする。
 道中、駅から神社へ向かう人たちとすれ違う。明け方の初詣もそれなりに混んでいたけれど、ここから更に混み合うのだと思うと早めに来てよかったねと話し合う。他愛のない雑談に花を咲かせる。ふと、要は参拝前の会話を思い出して尋ねる。

「そういえば雨藍ちゃん。結局何お願いしたの?」
「んー。要さんのこと」
「あはは。中身が全然分かんないなあ」
「……多分ね。要さんが嫌がりそうなこと」
「例えば?」
 今までの雨藍の行動を振り返る。要が嫌がることをしたくないからと遠慮したり、促されておずおずととった行動は可愛らしいものであったり。我儘が大した我儘となっていない落ちが多い。今回もきっとそういうものだろうと考え、要はにこにこと笑う。
 促されている。気付いた雨藍は足を止める。考える素振りを見せ、あー。うー。と悩まし気な声をあげる。しばらくして、ええい、女は度胸だと頭を振った。そして、気合を入れた表情で口を開く。

「要さんのことを知れますように」
「えー。十分知られてると思うけどなあ」
「好きなものや嫌いなもの。照くんや結くんと一緒にいることが気に入ってること。今が幸せならそれで良いと終えたことにそこまで関心を抱かないこと。そりゃあ、3年もお付き合いしているからね」
「雨藍ちゃんとしては他に何が知りたいの? 聞かれたら答えるけど」
「要さんがどこで生まれて、どういう風に育って、何を見てきたのか」

 それは要にとって予想外の言葉であった。雨藍自身が過去に関わる話題を避けているのだから、要の過去についても触れないようにしている気があったからだ。当然の反応だ。
 雨藍は一歩距離を縮め、要の顔をじっと見上げる。深い青の瞳に映る自分の顔は緊張で張り詰めた顔をしていた。それを見て、深呼吸を繰り返す。そして、ふんわりと表情を柔らかくして伝える。

「正確には要さんの内側に踏み込みたい、かな」

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