静まり返っていた外が朝日と共に賑やかになっていく。まるで太陽を目覚ましに、街が目覚めたようだ。それに合わせて少しづつ意識を夢から現実に移し、同時に感じる肌寒さに身震いをして身体を丸める。2人でこだわって探したシーツは肌触りがよく、素肌に優しい。
「……いさぎ?」
ふと、違和感を抱く。違和感というよりも物足りなさという方が正しい。ゆっくりと瞼をあげ、そこを確認して納得をする。皺を伸ばすように触れれば、まだほんのりと温もりがある。出て十数分そこらだろう。
「顔洗う……服着る……んー」
お互いが演じる役の関係でそういう行為は避けていたこともあり久しぶりであった。それに加えて翌日2人ともオフの日。その要因が重なった夫婦が同じベッドで眠るとなればすることはしっかりするし、ご無沙汰となれば激しくなるのも仕方がない。結論として、言咲はしなければという気持ちはあれど動く気力が全くなかった。痛みこそないが、情事後独特の気怠さが強く残っているのだから当然と言えば当然。
いつの間にか綺麗になっている素肌に布団を巻き付け、うーうーと唸りながらなんとか動こうとする。が、やはり何もしたくないという気持ちが勝り脱力をする。
「ふはっ」
「…………おかえり」
「ただいま」
「すっと表情を戻したところで今笑ったのは聞き逃さなかったからね」
「だろうな」
布団を隔て、1つの笑い声とビニールの擦れる音が鼓膜を震わす。布団からひょっこりと頭だけ出せば何食わぬ顔をした潔がマスクを外し、ゴミ箱に捨てていた。唇を尖らせれば意地悪気な笑みをにんまりと浮かべ、ベッドに腰を下ろす。
「…………」
「悪かったって」
「まだ何も言ってない」
「口にするつもりないだろ」
「そう思ってなんで謝るかなあ」
「寝ている間にコンビニに行くかどうかは多少なりとも悩んだからな」
言咲が露骨に不貞腐れている様子に予想通りの反応を見せてくれたと満足気に潔は笑う。このまま意地悪をし続けるのも一興だと思わなくもない。しかし、目を覚ました時にいるはずの者が隣にいないというのは存外寂しいもので言咲がその手の寂しさをあまり得意としていないことを知っていた潔としては罪悪感までは芽生えないものの、悪いことをしたなと思う気持ちは多少なりともあるためこれ以上の意地悪をやめることにした。
代わりに、汗が蒸発して冷え癖のついた髪を撫でる。むっすりとした言咲の表情は次第に解れ、気持ち良さそうに目を細める。長い青の髪を指の間に巻き込むようにして頬を撫でると、それを合図と捉えたのか言咲は少し布団から身を出して潔の腰に腕を回してぴっとりと密着をする。
はらりと布団が落ちることで露わになるのは重力に従って下へ落ちてもなお形の整った胸が作る美しい谷間やバトル好きのわりに傷痕は残らぬ滑らかな背中。意地悪は控えたが悪戯心まで控えるとは言っていない潔は「あれだけシたのに足らないのか?」と。背骨に沿って指を滑らせる。
「っん」
「ほお」
「誘ってないし足りないとも思ってないし十分に満たされてるから!」
「という反応には見えないが?」
「いろいろ察してるなら意地悪も悪戯も控えて!」
「だけどこのままにしてたら寝落ちするだろ」
「うぐ」
図星を突かれ、黙り込む。代わりに、腰に回した腕の力を強め「じわじわと残った温もりが消えていくベッドに1人で残されるの苦手だって知ってるくせに」と。
自分よりも高い潔の体温が移るように密着する面積を増やす。ちゃんと帰ってきたということが実感できれば安心感がどっと押し寄せ眠たくなるのも仕方がないだろう。そう言いたげな表情を浮かべて顔をあげれば、愛おしさを孕んだ目を向けられていることに気付く。
「そういうところがさあ!」
「好きだろ?」
「攻めとして? 受けとして?」
「照れ隠しでそういう話題に持っていこうとするのは悪い癖だな。ばればれだから見ていて愉快だけどな」
「分かった。少しの間黙って抱き枕になってて」
「この俺を抱き枕にできるとは贅沢だな」
「私の特権だから黙ってなってて!」
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