飛び飛びと。淡々と。会話が続く。ときどき途切れたと思えば、スズメが奇行を働く。何度目かの行動を見たあたりでヒトトセが「今日、テンション高いの?」と聞けば、無表情で何言っているんだこの人はという目を向けられる。
「だって今日、一段と奇行が酷い」
「いつも私が奇行を働いているような言い方やめてください。今日もしていません」
「いやいや。わりと多い」
「してません」
「え、本当に無自覚?」
人の頭に饅頭を積んできたり、身体を触ってきたり。他にもいろいろあるが、それを奇行と言わずしてなんと言うのか。呆れながら指摘すれば、スズメはきょとりとしてから首を傾げる。そして衝撃的な一言。
「よくあることでは?」
「…………笑っていい?」
「それこそ奇行だと思うけど、どうぞ?」
というかまた髪染めました? 傷んでますけど。と、最近金に染めなおされた髪について話題が変わる。恐らくスズメの関心は完全に髪に移行したのだろう。触れていいかなどの確認を特にする様子はなく毛先に触れて、枝毛があるだのどうだのと指摘をする。途中からそれに飽きたのか、頬をつついたり引っ張ったりとする。
しばらくして飽きたら手を離し、ローテーブルに放り出されていた雑誌に手を伸ばす。
「周りにいないんですよね。会話に受け身な人って」
「あー。マシンガン多そう」
「1度絡まれた貴方が思うくらいあれでしょう。だから珍しくてはしゃいでるところはあるんですよね」
淡々と無表情なのは変わらないというのにはしゃいでいたのか。分かりにくい様子に呆れつつ、はぁと脱力して横になる。
目を瞑れば他の五感が鋭くなるもので、初夏の風に揺れる風鈴の音もそれに運ばれる匂いも。アローラの恵みを肌で感じる。すると、隣から聞こえてくる雑誌のページを捲る音すら心地よくなるものだ。しだいにうとうとと眠気が襲ってきた。
「…………」
スズメが雑誌を流し読みをしてからしばらくして、気付けば青い空にオレンジ色が混ざり始めていた。そろそろ日も沈む頃かと雑誌を閉じる。夕飯の仕込みでもしようかと思うけれど、何食べたいですか? と食事のメニューを確認しようかと視線を落とせば目を瞑り静かな寝息をたてていた。
「え、本気で寝てるんですか」
「…………」
「ちょっと。いくら夏とはいえ風邪ひきますよ」
軽く肩をゆすってみるものの、あーやらうーやらと眠気に負けた反応しか返ってこない。頭をわしゃこらと撫でまわせば、睫毛が僅かに震えるが起きる気配がみられない。これは駄目だと諦め、同じようにスズメも横になる。
「うちに入り浸るのにも慣れてきましたよね」
とはいえ、ヒトトセから足を運んで来ることはなく誰かしらに引っ張られてのことだけれど。……連れてこられるだけ連れてこられて置いて遊びに行かれるとか少し可哀想に思えてくる。
「……わりと男の子な顔してますよね」
どちらかといえば大きい目はポケモンたちを前にすると輝かせていたり。楽しそうに笑ったときに開く口から覗く八重歯は無邪気に見えたり。どちらかと言えば可愛げのある方だと思っていたけれども……。観察するようにじっくりと眺める。
喉仏がしっかり出ているとか。顔もだけれども骨格が自分に比べてしっかりしているとか。柔らかそうだなと思っていた頬は意外と固い……のは、よく笑ってるから表情筋が鍛えられているからかもしれない。さほど性差はないと思っていたが、観察すれば見つかるものだとスズメはなんとなく悔しく思う。
「というか、ここまで触られていても起きないってどうなんですかね」
ヒトトセが起きていたときと同じように髪や頬に触る。うんともすんとも言わない様子が面白くなくて、睫毛の影が薄らとかかった目元を撫でてみる。これはさすがにくすぐったいのかほんの僅かだが身動ぎをしたが、すぐにやむ。
スズメは察する。これは何をしても目を開くことはしないだろうと。
「……奇行が多い、ね」
少し前にしていた会話を思い出して目を細める。そのつもりはないが、もしも自分がそれにあたる行動をしていたのであれば高確率、否100%トラヒコやエンテンの影響だろうと頭を悩ます。ああ、でもそれを言い訳にできるなら案外悪いことではないかもしれない。特にエンテン。後ほどといつめられても手の早い友人がいたから普通のことだと思っていたで言いくるめられそうだ。
ぐるぐると回っていた思考がまとまると、にんまりと口角をあげて起き上がる。そして、何しても頑なに目を開く様子のないヒトトセに顔を近づける。
「起きなかった方が悪いということで」
唇に残る柔らかな感触を指でなぞり、薄く微笑む。垂れてきた長い黒髪を耳にかけ、離れる前に耳元でぽつり一言零す。
「私、ヒトトセのこと好きですよ」
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