ナードが指示した指の先を辿れば、青い布に白いレースがあしらわれたリボンが置いてあった。首を傾げ、そのリボンを手に取った音羽はまじまじと観察してから「なったんの部屋にらしくないものだね」と。その言葉にナードはやっぱり無自覚だったんだと察し、音羽の髪に触れながら「それ、おとがつけてたものだよ」と。
「えっ!」
「いつもつけてるリボン。いつバトルになってもいいようにきあいのタスキにしてるって言ってたから。間違えるくらい疲れているんだろうなって」
「気付かなかったあ。えー、じゃあこれゆうらちゃんのかなあ」
青いリボンをくるくると丸め、ポシェットに片付ける。それからナードに許可を得て、開かれたままのチャット画面に向き合い、たどたどしい手つきでキーボードに触る。
ごーちゃんのおせっかい、おばか。よけーなおせわ。この短文を打ち込むのに5分以上かかっている。その間、ナードは暇なので、くるんと癖の付いた毛先をいじいじと遊ぶ。
「わわっ。なったん、ぴこんって!」
「返信きたんだよ。インしてるってこと」
「い、いん? えっと、ごーちゃんがこの先にいるってこと?」
「そう。ほら、これが返信」
「んっとー。音羽が自己管理できてたらしなくていい話でしたー……だって! うーー! これはおこだよ、なったん! ごーちゃんがひどいよ!」
机をだむだむと叩き、チャット画面を指さす。許さぬぞと鼻息を荒くして言い返そうとするが、のろのろと打ち込んでいる間にぴこんぴこんと次の返信が飛んでくる。うなあ! と悲鳴をあげて必死になる音羽とゲーム画面を見比べ、ナードは敵が出るフィールドでもないからいいかと放置をする。
「わあん! わたしがこういうの慣れてないこと知ってるくせにごーちゃんが次々と送ってくるよ!」
「電話した方が早いんじゃない?」
「そっか!」
ナードの言葉に頷き、すかさず電話をかける。繋がるなり「ごーちゃんのいじわる!」と怒り出す音羽に対し、相手は想定内だったのかけたけたと笑い声をあげていた。この電話は長くなるのだろうかと思ったナードはキッチンで用意していたものを取りに行こうかと考えるが、音羽がナードの足の間にすっぽりと収まる形で座り込んでしまったので動くことができず。今できることといえばゲームくらいなのでやりにくい態勢であるがと手を伸ばし、マウスとキーボードを手に取る。
ふと見ると、音羽が電話している相手がナードのキャラクターと合流しているではないか。電話しながらプレイするなんて器用だなと思いつつ、ダンジョンへと進む。
「うー、寝たよ。しっかり寝たってばあ。なったんの態度が冷たくて悲しいあまりふて寝したもん。そしたら身体中痛いの」
「……」
「今? なったんがゲームしてるからそれ見ながら電話して、あっ!」
「え、なに?」
「のろけ話するために電話するなって切られた」
ぶうと唇を尖らせ、携帯をパソコンの横に放る。そして、ナードの視界の邪魔にならないように少し身を縮め、ぽすりともたれかかる。
あ、どくわけじゃないんだ。と、言いかけた言葉は赤くなった目元を見て飲み込むことにした。
「おと、怖い夢見てた?」
「ううん。ただ、起きたときに1人でいることが苦手なのかな。最初から1人で寝床についたとかなら大丈夫だけど、不意打ちだと」
「……そうなんだ」
「カケルくんたちと会う前までね、ひとりぼっちだったの。今はみんなといることが当たり前になっててね。だから突然のひとりぼっちは昔を思い出して怖いのかなあ。あと、なったんに嫌われるなんて考えたことがないこと浮かべちゃったから」
そうでないことを安心したようで、ふにゃりと頬を緩める。そして、すりすりとナードに擦り寄り「なったん大好き〜」と甘える。照れ隠しなのか、それともゲームのプレイ中だからか。ナードは素っ気なく「くすぐったい」と。止められた音羽は特に不満気な様子を浮かべるわけでもなく、にこにこと上機嫌でいる。
それからしばらく、ナードは始めたゲームのきりがつくまで進め、音羽はそれを楽し気に眺めていた。ゲームはあまりやらない方であるが、どうやらナードと剛貴が一緒にやっているという不思議な光景が面白いらしい。が、それも長く続かず音羽の腹の虫が鳴き始める。
「起きたとき、お腹空くと思っておにぎり作ろうと思ったんだ」
「食べるー。お腹空いたあ」
「じゃあこれ終わったら食べよ」
「はぁい!」
prev next
TOP