忍ぶ想いは星空に蕩ける

「息を飲むほど美しい光景だからというのも理由の1つなのよ」
「はい」
「それ以上にね、たまらなく愛おしくなるのよ」
「星空が、ですか?」

 花扇は大衆が口を揃えて称賛する大輪の花である。彼女はそれを否定することなく受け止める。それに見合う容姿と能力を有していることを自覚しているから。正確にはそこに至るまでの努力をしているからだ。だが、花扇の本質は無垢である。高級妓楼の頂点に立つ遊女に無垢とはいかにという話だが、彼女のことを良く知る者たちは無垢な少女だと表現しても違和感がないと頷くだろう。
 それもそのはず。奴隷であった波乱万丈の経歴をもつたまのねのような。海底洞窟で長い時を生きてきた浪漫溢れる結姫のような。死者の揺り籠と物騒な呼び名をつけられた千波のような。個性に溢れすぎる過去が花扇にはないのだ。だから花扇は他の者たちに比べてロマンチストで無垢なのだ。
 だが、周囲が向ける花扇の評価にそのようなものはなかった。ゆえに花扇は自分の本当に好きなものや理由を語ることをしない。似合わない、らしくないと言われることが疲れるから。

「宇宙は広大で無数の星々が散らばっている。この地上から見える数多の星はほんのひと握り。中には私たちの住むこの星のように命が芽吹いている星もあるだろう。そう思うとね、ささやかな出会いが、今この瞬間もとても尊いものに感じるのよ」
「…………」
「龍宮城に居場所があることも。たまたちと共に暮らしていることも。……貴方とこうして同じ時間を過ごしていることだって。億千とある可能性からたったひとつまみの巡り合わせ。愛おしくて、なんて幸せなのだろうって」

 小さな蕾が綻ぶように愛らしい笑みを浮かべ、花色の肩にもたれる。
 とくん。とくん。静かに、いつもよりも早く鳴る鼓動はどちらのものか。柄にもない、誰にも言ったこともない話を語った花扇のものか。甘えるように寄りかかられ、その柔らかさに緊張した花色のものか。

「貴女らしい、とても素敵な考え方ですね」
「ふふっ。そうい言ってくれるのは貴方くらいよ」

 花色であればきっとそう受け入れてくれるだろう。そういう打算的な考えが花扇の中にないと言えば嘘となる。心惹かれている人に自分のことを知ってほしいという乙女らしい願望があることも否定できない。
 だから、花色の反応を見て身体の力が抜けた。そこで気付く。どうやら、めったにしない緊張をしていたらしいということを。それがなんだかおかしくて、花扇は小さな声をあげて笑い始める。その姿につられて花色も微かな笑い声を漏らす。

「私、貴方のそういうところ好いと思うわ」

 花扇は自覚する。どうやら私は自分が思っていたよりも臆病らしい、と。
 こういう言葉で遠回しに伝えることはできるというのに、花色に対する言葉は一言も口にできないのだから。……もっとも、花色がその些細な一言で勘づくような鋭さがあれば言えなかっただろうが。

「ありがとうございます?」
「こちらこそ、ありがとう」

 きっと、貴方と出会って恋しく思えるようになったことが私の中で1番尊く、愛しいことだと思うわ。
 なんて。言葉は喉元にすらあげることはできず。思考の1つとしてし沈めるのであった。

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