忍ぶ想いは星空に蕩ける

 満天の星空が目を奪う。息付く間もなく変わるその美しい光景は有限の時間が永久のように勘違いしてしまいそうになる。そんな空間に夢中となる横顔をチラ見し、先程のやりとりから芽生えたわだかまりを思い出す。
 きっと考えすぎだろう。きっとあの言葉に深い意味はなかっただろう。そう思いながらも、そのきっかけとなる言葉を吐き出したことに一抹の後悔が真っ白なシーツにしみついた汚れのようにこびりついて落ちそうにない。

「はあ、楽しかったあ」
「そうですね」
「花色さんが一緒に来てくれて良かったわ。たまたちと行くと皆眠ってしまうからつまらないの」
「おひとりで行くことはされないのですか?」
「一人で行動はあまりしないわね。特に遠出は結姫か千波のどちらかについてきてもらうの」

 軽い足取りで数歩先を歩いている花扇はくるりと振り返り、花色の後ろを指さす。指先を辿ると、そこには遊び慣れているような少々柄の悪い2人の男がいた。花色と目が合うと男たちは舌打ちをし、背を向ける。そのやりとりに花扇はクスクスと優雅な振る舞いで笑いをこぼし、再び歩き始める。

「私が私生活で抱かれる印象って2通りなのよ。見た目から気が強そうで怖いか、派手な顔立ちだし遊び慣れていそうのどちらか。外でされるナンパなんてあしらうのは簡単だけれど、お店と違って無法地帯じゃない? だから時々危ない目に遭うのよ」

 私、見た目ほど強くないから。用心棒、みたいな?
 手入れされた短い後ろ髪に触れ、目を瞑る。思い出されるのはまだ花扇の髪が長く、たまのねの髪が短かったあの頃のこと。きっと、後にも先にもあれ以上の屈辱を味わうことはないだろう、あの日のこと。けれど、それは語るものではない。薄く開いた唇を閉じ、ほんの少しだけ潤んだピンクの瞳を露わにする。
 その声色に鼓膜を震わせ、その顔を視界に焼き付けた花色は目を細める。そして、思考をゆっくりと回し、じっくりと深める。体感では長い時間であっただろうが、実際は数分にも満たないものであった。そして、沈黙を破る。

「貴女は、」
「ん?」
「貴女はとても繊細だと思いますよ」
「そうかしら」
「はい。あと、少し思い込みが激しいところもありますよね」

 想像をしていなかった言葉に目をまばたかせる。もしかして何か怒らせることを言ってしまったかしら。不安になった花扇は顔を少しだけ俯かせ、髪に隠れた表情を確認するように覗き込む。
 かちり。静かな青紫の瞳ときらめく薔薇色の瞳が合う。不安の色に揺れる薔薇色の瞳に優しさを帯びた青紫の瞳を細め、柔らかく微笑む。

「花扇さんは結構ロマンチストだと思いますよ。ただ、数理が混在する理論とかは苦手そうだと思っていたので」
「……自分で言うのもあれかもしれないけれど、これでも賢い方なのよ?」
「文学や歴史に明るいのは街のことを語る様子からも知っていますが……。お買い物するとき実はあまりお金の計算とかしていないでしょう」
「……貴方は本当に人のことを丁寧に見るのね」
「よく見ているように言ったのは花扇さんですよ」
「そういう意味で言ったわけではないのに」

 降参。そう言うように肩を竦ませる。辺りを見渡し、アンティークベンチを見つける。スカートの皺を伸ばして座る。花扇の行動を眺めている花色を手招きすれば、素直にそれに従い、隣に腰をかける。
 目を瞑る。深く吐き、吸い込む。花の香りをたっぷりとしみ込ませた酸素が胸いっぱいに染みわたる。もやもやと浮き沈みしていたわだかまりが晴れるような感覚になる。

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