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(私は専従タクシードライバーじゃないっての)

 一言、帰ると書かれたメールを見ると頭が痛くなる。第一私勤務中だし、というか公安って言っても厳密には部署違うのだけれど。専務と係長くらいのレベルの差は確かにあるからなーにも文句は言えないんですけどね。

「先輩、ちょっと降谷さんの迎えに行ってきます」

 隣で書類と格闘している先輩にいうと、またかと迷惑5割、同情1割、その他エトセトラと何とも言えない目をされた。早く済ませて来いと言われた言葉に返事を返しつつ荷物を持って外に出た。




「俺だって暇じゃないってのに。デスクワークとこうも接待ばかりじゃ疲れる」
(あーーー私こそその言葉を言いたいです)
「しかも昨日の女は最悪。酒癖も悪ければ、高圧的なくせにマグロ。どう思うなまえ?」
「と、とりあえず庁に戻ったらシャワー浴びて下さい」
「お前この手の話題相変わらず苦手だな」

 ニヤニヤとした表情を浮かべる降谷さんが楽しそうで何よりです。いつか絶対にセクハラで訴えるので覚悟しといてくださいと心の中で中指を立てた。

「庁に着いたので降りて下さい。私あと車置いてくるので、お疲れ様です」
「別にエントランスにいる奴らに任せればいいだろう。第一荷物があるのに誰が運ぶんだ?なまえも降りるぞ。」

 この俺様野郎はー!ブルジョワめー!と頬を引きつらせながら、何とかはいと返事をする。荷物も他の人に運ばせれば良いのに、変に他人を信用しないのだから。風見辺りを呼べば喜んで来るだろうに。あいつは私以上に忠犬だ。
 よいっしょと黒い鞄と服を持ちながら先輩の後を続く。

「ちょっと降谷さん、今日お偉いさん来ているのでちゃんとジャケット来てください」
「あぁ、今日だったか」
 慌てて入口に入る前に、ジャッケトを広げ腕を通してもらう。まるでコンシェルジュか秘書みたいだ。

「おや、降谷くんでないか。久しぶり」
 エレベーターを待っていると、さっそくお偉いさんが来たものだから、ほら見たことかと思った。
「源さん!お久しぶりです、いつもお世話になっています。2か月前の食事会以来ですかね。最近お忙しいと聞いていたので、お会いできて嬉しいです」
「はは、君のような若者にそう言って貰えると嘘でも嬉しいな」
「嘘だなんてそんな...源さんのお話もいつも興味深くてタメになるものです」

 少し慌てたようなけれど嬉しさが滲み出る顔で言われれば、誰だって悪い気はしないだろう。二人は和やかに談笑しており、相変わらずの猫被りだ。

「ところで後ろにいる女性は誰なんだい?」
「私はふ「あぁ、彼女は警視庁の物です。上の物より呼び出しが掛かりまして」
「そうか、君も大変だな」
 それでは、と去っていく姿を二人で軽く会釈して見送る。ちょうどエレベーターが降りてきて中には誰もいない。中に入りエレベーターが完全に閉まったのを確認した後口を開いた。


「私警視庁のものじゃないんですけど」
「馬鹿か。馬鹿正直にこちらの手の内を明かしてどうするんだ。あいつらは俺のバッシング材料を常日頃探してるんだぞ、馬鹿」

 に、二回も馬鹿って言わなくても!思わずむすっとした表情をしてしまうと、目ざとくそれを見た先輩が呆れたように鼻で笑う。こ、この野郎。

「心配するな、なまえのことを思って言っているんだ」

 困ったように降谷さんが言うから、えっこの人にもまともな人間らしい心があったのかと感激して顔を上げると目が合った。

「だってお前はポーカーフェイスも接待も苦手な上、頭も足りない駄犬だからな。ちゃんと見とかないと良いように使われるだろう?」

 そんな事だろうと思ってましたよ先輩。笑顔が今日も素敵ですねチクショウ。