「ええ。彼、魔力を持たないんです」

「なるほど」

「そこで貴女の寮に置いてほしいんです」

「まあ部屋なら沢山あるから良いですけど…」

「決まりですね!ではよろしくお願いしますね!ああ…なんて優しいんでしょう私!」
「だから、優しい人は自分で優しいとか言わないです」
「ぐすん…」

あの時のように項垂れる学園長尻目に少年を見ると、トントン拍子に色々決まっていく中で不安げにこちらを見ていた。

「ごめんね、勝手に色々決めて。私はイリス。君は?」

「僕はユウです。いえ、助かりました!本当に不安で…」

「衣食住は私が保証してあげるから、君は心配しなくて良いよ」

「ありがとうございます!」

可愛い後輩が出来て嬉しくなっていると、どこからか猫が。
…猫が?

「猫!猫が!」

「ふなぁぁぁ!俺様は大魔法士になるんだー!」

「学園長あの猫火吹いてますけど!」

「貴方の使い魔ならちゃんと面倒見て…」
「だから僕の使い魔じゃないです!」

「はやとちり!学園長早く何とかしないと!」

「そうですね」

猫?が勢いよく火を吹いている。
これはまずい。
それを見かねてアズールやリドルが助けに来てくれた。

「まったく貴女って人は!」

「あの猫と一緒にクビをはねてしまうよ!」

「え!何それ私の扱い酷くない?私これ悪くないよね!」

「いいから止めますよ!協力してください」

何故か自分を責められた事に納得はいかなかったが、ユウや他の生徒に危害を加えるわけにもいかずイリスはマジカルペンを持った。
白い万年筆に、透明の魔法石がついている。
それを一振り、猫に向かって放つとまるでシャボン玉のような光が猫の周りに舞い、弾けて火を消した。

「ふなぁぁ!俺様の魔法が!」

「アズール、リドル、後おねがーい」

間延びした声でイリスがそう言うと二人は猫を捕まえにかかった。
そしてイリスは悪戯っ子のような笑みを浮かべ、猫がアズールとリドルに捕まるのを眺めていた。
無事に入学式も終え、イリスはユウを連れ学園長と共にオンボロ寮へ。

「ユウの部屋作らないとね」

「ありがとうございます」

「いやまあ、最初が肝心ってことで?」

ふわっと笑うイリスにユウは頬を染める。

「それではイリスさん、お願いしますね。ひとまず私はユウさんが帰る方法を探します。それからこれからどうするのかも考えねばなりません。今日はゆっくり休んで、明日また考えましょう」

「はい。よろしくお願いします」

ユウは丁寧にお辞儀をする。
それを見て学園長はイリスの肩を叩きオンボロ寮を後にした。

「じゃあユウ君の部屋はとりあえず私の部屋の隣にしようね。何かあったら直ぐ声かけられるようにね。ちょっと準備してきちゃうから談話室で待っててもらえる?」

「はい!」

こうも素直で可愛い後輩が出来ると何だかむず痒いけれど嬉しく思うイリス。
あらかた片付けてはあるが、手付かずのところもあるから明日は大掃除だなぁと考えながらユウの部屋を準備にかかった。
マジカルペンを一振り。青い瞳がきらっと一瞬黄金に輝く。
―頭でイメージする。ユウに似合いそうな部屋を。
シャボン玉のような光がぱっと弾けると先程までの埃まみれであちこち汚かった部屋がシンプルで綺麗な部屋へ一瞬で変わった。

「後は明日、ミステリーショップで必要なもの買って帰ればいいかな。ひとまず寝られればいいかな」

満足し、談話室へ向かうと何やら騒がしい。

「ユウ?」

「俺様があれで堪えるわけない!」

「あ、イリスさん」

「あれ?その猫」
「猫じゃない!グリム様なんだゾ!」

リドルが首をはね、アズールが捕まえたあの時の猫がユウと言い合いをしていた。
どうやら学園へ入学することを諦めていなかったようだ。

「イリスさん、どうしたら…」

「とりあえず、明日学園長に話してみるよ。今日はここで一緒に休んだら?このまま追い出すのも可哀想だし…」

「ありがとうなんだゾ!お前良い奴だな!」

「イリスだよ。よろしくねグリム君」

「よろしくなんだゾ!」

「ユウ君申し訳ないけど、グリム君部屋に泊めてあげてくれるかな?部屋案内するよ」

「はい!すいません。本当ありがとうございます…」

「知り合いもいなければ不安だもんね。大丈夫よ!私は君の味方だから。学園長が何か変なこと言ってきたら直ぐに言うのよ」

「はい!」

学園長が―の辺りからイリスの目は笑っていなかったが、そこは敢えて触れずにユウはイリスの後についていく。
ユウと名前の書かれたプレートが掛けてある部屋の前に着いた。

「ここがユウ君のお部屋。どーぞ」

扉を開けるとそこはシンプルで綺麗になった部屋。
大きな窓があり、月明かりが溢れ神秘的な空間にも見える。

「こんな素敵な部屋、いいんですか?」

「勿論!君のイメージで作ったから、君の部屋よ。お風呂やキッチンは部屋を出て真っ直ぐ行った先にあるから、先に入ってゆっくり休んで。冷蔵庫にサンドイッチもあるからもしお腹減ったら食べてね。私はちょっと出てくるから」

「はい!」
「ありがとうなんだゾ!」

安堵の表情で喜ぶユウの頭を撫で、ついでにもふもふなグリムの頭も撫でイリスはオンボロ寮を後にした。
あれだけ目立っちゃったからな。後が怖いとひた走るイリスであった。



2020.05.30