爪の先まで考えて
小さな港町しかないのどかな島にログが溜まるまでの間停泊することになった。幸い海軍の駐屯地もなく島の人間もたまに来る客人だと言うことでとても良くしてくれている。唯一困った事と言えば、することが無い事くらいだ。気候も安定していて、いつも晴れてるからと、クルー達が毎日甲板で洗濯物を干しているのを眺めながらベポを枕に昼寝をするのがこの島での俺の日課になっていた。

今日も昼寝をしようと分厚い本を片手に甲板へ出る。いつも昼寝をしているはずのベポの姿が見当たらなく上の甲板へ移動しようと階段へ足を伸ばしたら丁度上の甲板から降りてきたペンギンにベポならシャチとほかのクルー何人かで薬草を取りに行くと1時間ほど前に出かけましたよと教えられた、そういえばシャチが先日酒場で町の人に教えて貰った怪我にも病気にも効くと言われている嘘のような存在も怪しい薬草を探しにいくと騒いでいたのを思い出した、ベポが居ないなら部屋へ戻ろうかとも考えたがそんな気分でもなく、いつもの定位置で腰を下ろし先日町で買った読みかけの医学書を開く。シーツが風に揺れる音をBGM替わりに心地よい睡魔が誘ってくるまでの少しの間整った文字の羅列に視線を這わせた。


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なにやらざわついてる気配を感じ昼寝から目を覚ますと、もう日が傾きかけてた。欠伸を噛み殺しながら帽子を被り直し、少し気だるさの残った身体を伸ばす。医学書を手に取り自室へ戻ろうと立ち上がるとバタバタと甲板を走る音とともにシャチの声が聞こえてきた。

「キャプテーン!キャプテン!ベポがー!」
「ベポがどうした?」

歩みを止めシャチのほうに体を向けると、目の前でとまった彼はかなり走ったのだろう肌に汗を浮かばせ 乱れた息を整えようと肩を上下させていた。

「そっ…それが薬草取りに夢中になっていたら途中ではぐれてしまいまして…。くまなく探したつもりなんですが姿が見当たらなく。日も落ちてきてるし船に戻ってきていると思ったんですけどそれも違ったみたいで…」
「子電々虫は持っていなかったのか?」
「そのときは俺が持ってたんです。今はまだ探してるクルーに預けてます。」
「…そいつらに船に戻るよう連絡しろ。これ以上迷子が増えてもかなわねぇ。俺が探しに行く。」

返事をするシャチに本を預け、べぽが戻ってきたら子電々虫で連絡するよう伝え船を下りた。


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春のぬるい風と沈みかかった夕日がすでに夜が間近な事を知らせる。この島で町に行く以外で船を出るのは初めてで寝起きの散歩に丁度いいと歩みを進める。とはいえ、探す場所が島全体になると能力を使うのも体力を削るだけだ、だが早く見つけなければ探すのも難しくなる。クルーたちが歩いたであろう足跡をたどって暫く歩くと、小さくだが人の話し声が聞こえてきた。声の方向に向かって歩みを進めるとその声の1つがベポの声だと気づく。歩みを早め見晴らしのいい場所に出ると、聞き覚えのない男の声がはっきりと聞こえた。

「彼はベポの仲間じゃないのかい??」
「うわぁ!本当だ!キャプテンだ!キャープテーン!」

上機嫌でこちらへ手を振りながら駆け寄ってくるベポの姿を見て安心したのか少しため息がでた。船でのシャチの慌てた様子を思い出し、あいつも浮かばれないなと口を緩めたが、すぐ後ろを歩いている見覚えのない男の姿が視界に入る。先程の声の持ち主であろう、雨なんて降ってもいないのに傘を差し、黒いチャイナ服の上から全身を覆う長さの白いマントを身につけている。ベポを見つめていた男は俺の視線に気がついたのか足を止めた。西日から守るように差された赤い番傘をゆっくり上げる腕は男か女か判別がつかないほどに細くて白い。ゆるい風に乗って血の匂いが鼻を掠めた。今までの旅で培ってきた直感がそいつは危険だとしらせる。同時にそいつは傘で隠れていた顔をこちらへ向けた。

「ベポ、そいつから離れろ。」
「キャプテン?」
「こいつから血の匂いがプンプンしやがる。」
「まあまあお兄さん、そんな物騒な物しまってよ。俺、痛いのは嫌いなんだよねー。」

目にかかる長さの前髪を揺らしながら人懐っこい笑みを浮かべた男は見た目の印象からして20代前後であろう、柔らかい口調とは裏腹にこちらの敵意に気がついたのだろう。嫌な空気を出している。

「安心しろ、痛くはしねぇ。少しバラして話を聞くだけだ。」

ピリピリと痺れるような緊張感が肌を伝う。風に揺れる亜麻色の髪は沈みかかった夕日に当てられてキラキラと反射していた。少し細められた赤茶色の瞳を爛々と輝かせこちらの動きを伺っている。気を抜いたら後から首の骨を噛み砕かれるそんな自我のない大きな獣を目の前にしたかのような気分だ。俺は刀の柄をもう一度握り直し、円を発動させようとした瞬間、目の前に突然少し怒った表情のベポが割って入ってきた。

「キャプテンもユキトもなんでおれの事無視するの!ちゃんと話を聞いてよ!確かにユキトは血腥いけど」
「え?俺そんなに臭い?」
「お腹が空いてたおれに食べ物分けてくれて迷子になった俺と薬草まで一緒に探してくれて!ユキトは悪い人じゃないよ!」
「少ししか見つからなかったけどね」
「ユキトもキャプテンを挑発しないの!」

ユキトと呼ばれた男はごめんごめんと言いながら、困った表情でベポを宥めている。もう敵意はないのか、先程までの雰囲気とは違い人の良さそうな青年に戻っていた。

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