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やって来たのは、人気の少ない映画館。
面白そうなホラー映画を選んでシアターに入ったは良いものの…音が大きい(当たり前か)。
別に、ホラー映画は観れる。
嫌がるメンバーを無視してホラー番組を観るくらいにはホラーを好むが、映画館独特のあの音の大きさにはいつも驚かされるんだ。
だからアクション映画も、爆音で流される映画館で観るのはあまり好きではない。
「っ!」
幽霊が出て来た音に、思わず身体が跳ねる。
そう言えば前、あいつとホラー映画を映画館で観たときに言われたかな。
驚くくらいならここで観なければ良い、と。
それでも観たくなるのは、人間の性分(サガ)というものなのだろう。
テグンもそう思っているのか解らないが、僕の方をチラリと見て来たのが視線で解った。
洋物のホラー映画は日本のホラー映画とは違ってリアリティーがある。
グロいのはとことん苦手なくせに洋物を選んだのは、完全に僕のミスだ。
裂ける身体や悲鳴、焼け溶けた身体。
ああ、どうしよう、気持ち悪くなってきた。
「…怖かったら、来て良い。」
「…別に、怖くはない。ただ、グロいのは…僕の専門外だ…。」
何度も出て来る、グロテスクなシーン。
それに身体を震えさせていると、不意に手に温もりを感じた。
驚いてテグンを見ると、テグンは平然としたまま画面を見つめていて。
視線に気付いたのかこちらに視線を移し、「怖かったら来て良い」と言ってきた。
映画自体は、本当に怖くはない。
ただただグロテスクなものは専門外なだけで、慣れていないから…。
いや、もうこの際何を言っても変わらないか。
誰かに頼る…いや、BEASTのメンバー以外に頼ることは僕のプライドが許さないのか、素直に言うことは出来ないが…。
どうしてだろうね。
テグンが、あいつと行動なんかがどことなく似ているから、なのだろうか…。
黙って頼ってみるのも良いのかもしれない、なんて思う自分が居て心底驚いた。
「はぁ…。グロい映像は嫌いだ…。もしこの先僕に演技の仕事をくださっても、医療系は苦手なので時間がかかります。」
「…どこに宣伝してる?」
「これを観ているプロデューサー、かな。」
なんとか映画を観終えて、カメラマンと合流。
最後は適当な場所で、好きなご飯を食べて収録は終わるらしい。
ほぼ丸一日という時間を使っているのに、使われる尺が短いのは気に入らないが…。
まあ、今日は映画も観たから仕方ない。
さっさとご飯を食べて家に帰る…か、練習室に行ってカムバックの練習でもしよう。
ライブの練習もしなければいけないし。
移動のために、用意されていた車に乗り込む。
ここでもまた僕が運転するらしい。
ここのところ運転していなかったけど、ウギョルのせいで運転が上手くなっているような気がするのは僕の気のせいかな。
「何が食べたい?」
「そうだね…サムギョプサルなんかで良いんじゃない?洒落た場所は苦手だから。」
「なまえらしい。」
「煩いな。堅苦しいのは苦手なんだよ。」
軽く言い合いながらも、運転しながら夕飯を何にするか決める。
サムギョプサルメインの店だと、この場所からじゃ…メンバーとよく行く店が近いな。
よく行く場所だからあまりテレビで流したくはないけれど、店内だけならば過激なファンにだってそうそうバレないだろう。
僕たちの行き着けだ、とだけ言わなければ多分大丈夫だろうしね。
「…これ、誰の曲?」
「これ?これはKAT-TUNっていう、日本のアイドルの曲だよ。」
「アイドル?…曲が、かっこいい…。」
「だろう。僕が練習生になる前からずっと追い掛けている、尊敬する人が居るからね。彼らの歌がかっこいいのは当たり前だよ。」
車の中で流していた音楽に触れるテグン。
今までは流していなかったけど、あまりにも無音だと運転していても面白くないから、CDをわざわざ持参して流していた。
流していたのは、KAT-TUNの曲。
パソコンでお気に入りの曲ばかりをチョイスした、僕のセレクトCDだ。
テグンは曲をかっこいいと褒めたあと、すぐに携帯を触りだす。
検索でもしているのだろうか。
なんにせよ、兄単体が褒められたわけではないが、身内としてはやはり誇らしい。
練習生になるよりもずっと前から追い掛けて来ていた、ジン兄の後ろ姿。
言葉通り、僕はジン兄を尊敬している。
「………あ。」
「お、なまえ…や、ミンス!とレオ!」
上機嫌で運転すること十数分。
目的地であるお店に到着した。
車を降りて店に入るとまさかのBEASTと遭遇。
だけど全員ではなく、ドゥジュンとジュンヒョンとヒョンスンと言う微妙な顔ぶれだ。
…せめてこのメンツにドンウンが居てくれたらまだ良かったのに。
ドゥジュンたちを見るなり、ぺこりと丁寧に挨拶をするテグン。
こいつらに頭を下げることはないよ、と言えばドゥジュンから軽く頭を叩かれた。
…こいつ殺す。
「やー、ウギョルの収録か?」
「…テグン、どこに座ろうか。」
「ヤァ!ミンスヤ!」
「ミンスー。一緒に食べようよー。」
ウギョルの収録か?、と訊いてくるドゥジュンに無視を決め込む。
あまり関わったところで良いことなんて絶対ないし、お腹も空いたから早くご飯を食べたい。
僕が無視をしても、テグンはどうしたら良いのか解らないかのように焦っていて、韓国の文化とはこういうときに面倒なんだと思った。
まあ、相手が先輩っていうのに加えて事務所が違うっていうのもあるからだとは思うけどね。
結局ヒョンスンに引っ張られて、僕とテグンはドゥジュンたちと食べることになった。
これウギョルという仮装結婚番組なのに、メンバーも一緒で良いのかな。
スタッフが止めないから、良いんだろうけど。
どうせドゥジュンたちのことだ。
自分たちも一緒に食べて、番組に払ってもらおうとでもしているんだろう。
領収書でも切っておけ。
「ミンス、レオ、何を食べるんだ?」
「サムギョプサル。」
「オレ、チゲとチヂミ食べたい。」
「サムギョプサル。」
「はいはい…。サムギョプサルとチゲとチヂミな。チゲは何チゲにするんだ?」
ドゥジュンのおかげで、頼むメニューがスムーズに決まっていく。
黙ったままのテグンにこれで良いのかとこっそり訊くと、テグンは静かに頷いた。
…緊張してるな、多分。
それにしても、座席が嫌過ぎる。
どうして僕の両隣が、テグンとジュンヒョンになるんだ?
テグンは100歩譲って許すとしても、ジュンヒョンが隣に座る理由が解らない。
誘ったのはヒョンスンのくせに。
「レオ、ミンスの相手は大変だろ。」
「いえ…、そんなことないです…。」
「言わされてるんだな。可哀想に。」
「ユン・ドゥジュン、次の練習覚えときなよ。立てなくしてやるから。」
「ヤァ!」
食事が来るまでと食べている間、主に口を開いているのはドゥジュンで。
そんなドゥジュンに巻き込まれているのは、可哀想なことにテグンだった。
ドゥジュンは僕とは違い、年齢も芸能歴もテグンより上だから、テグンも下手には扱えない。
そんなこと解ってはいたけど、僕が助けるものでもないと思って放置していた。
「おまえ、旦那助けてやれよ。」
「テグンなら自分でもなんとか出来るでしょ。それよりそれ、僕にも取って。」
「はいはい…。」
食べるときは基本的に無言な僕が黙々と食べていると、ジュンヒョンからテグンを助けてやれよと言われる。
テグンを助ける気なんてさらさらないし、なにかあっても大丈夫だろう。
前回と今日とで解ったけど、テグンは気配りが出来る、意外と優しい人間だからね。
それよりも今の僕にとっては、目の前の食事を食べることが優先すべきこと。
その話題を流してジュンヒョンにチヂミを取ってもらい、それにかぶりついた。
…正直、いつものように来ると思っていたからこそこんな態度には驚いてしまう。
珍しく触れてこないこいつに安心する自分が居ることに、少しだけ驚いた。
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