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新婚旅行ということで、僕たちは日本の東京へとやって来た。
特別変わらない景色に安心しながらも、やはり少しずつ変わっている環境に驚かされる。

ここでの移動も、もちろん車で僕の運転。
韓国よりも慣れているはずの地なのに、なんとなく危ういのは…まあ、周りの環境が変わったからだと言っておく。
決して心を全部韓国に置いてるワケではない。



「…なまえ、そこ右。」

「ああもう!解ってるよ!文句があるなら、キミが運転すれば良いだろっ。」



何度かナビが示す道順を間違えて走っていたことと、久しぶりの日本での運転で気が立っていたんだろう…。
テグンの言葉にやけにイライラしてしまい、無駄に言葉が刺々しくなる。

運転しない、なんて解っているのに。
僕は何を言っているんだろうか。
それに、これは曲がりなりにも新婚旅行。
喧嘩なんてしていられない。

テグンは僕の気が立っていることに気付いたのかそれ以上は触れず、黙ったまま。
申し訳ないとは思うが、これ以上何かを刺々しく言ってしまうよりはマシ。
だから今はそれが、有り難いと思えた。



「やっと着いた…。」

「ありがとう、なまえ。」

「いや、うん…ごめん。」



なんとか着いたスカイツリー。
これからあんなところに行かなければならないという恐怖心と、無駄に気を遣った路への気疲れで僕は早くも疲れてしまった。

ありがとう、という言葉とともにテグンから渡された缶コーヒーを受け取る。
あんな態度を取ってしまったんだ、ありがとう、なんて言ってもらえる立場ではないのに。

その話に特別触れてこないテグンの優しさが、痛いほど身に染みた。
僕が先輩なはずなんだけどね。



「……………………。」

「……なまえ?」

「ちょ、動かないで。死ぬから。」

「…高所恐怖症?」

「う、煩いな!こ、こんなもの怖くないよ!」



けれどその優しさも、上へ行くエレベーターに乗ってしまえば僕の中から消え去る。
テグンからの優しさの代わりに出て来たのは、高さからの恐怖心。
もしかしてこれ、東京タワーより高いんじゃ?

エレベーターの線が突然切れて落ちたらどうしよう、なんて杞憂な心配をしてしまうと、さらに不安になってしまう。
それなら考えなければ良い話しだが、怖いと思う人間は自然と"そういうこと"を考えてしまうものなんだ。

ああ、僕はどうしてスカイツリーに行こうだなんて言ってしまったんだろう。
目を閉じてテグンの服を掴み、早く到着することだけを祈っていた。



「…景色が良い。」

「ああ…そう…うん、綺麗だね…。」



自業自得とは言え、これは辛すぎる。
展望台から下を見渡すテグンよりも、かなり奥まったところで見る僕。

絵面的にはシュールだし、なんとか堪えなきゃいけないんだろうけど…。
そんなもの、何年か前にBEASTで行った東京タワーで気力を使い果たしている。

だけどまあ、テグンが心なしか楽しそうにしているから…良しとしよう。
此処まで来て楽しんでいなかったら、逆に刺してあげただろうけどね。



「………なまえ、オススメのスポットがあるらしい。あれに書いてる。」

「オススメ?…ああ、うん、いや、もうなんでも良い。どうにでもなってくれ。」



ぐるりと一周したあと、テグンが出されていたカンペに気付いて僕に知らせてくる。
オススメスポットがあろうがなかろうが、僕はこの高さから死ななければなんでも良い。

珍しく怖がる僕が珍しいのか面白いのか、テグンはまるで子どもを見るように見てくる。
最近、テグンには情けない姿ばかり晒していて嫌になってしまう。
僕たちBEASTの出ていたリアリティー番組でも晒していなかったというのに(多分)。

スタッフに誘導されるまま案内される。
歩けば歩く度に嫌な予感がするのは、はたして僕の気のせいなのか…。
いや、気のせいであってほしい。



「……………うん、無理。」

「…なまえ?」



嫌な予感というものは当たるものなんだね…。

東京タワーにしかないと信じて疑わなかった、あの魔のガラス床。
あれが今、僕の目の前に立ちはだかっている。
しかもそれにテグンは簡単に乗るものだから、神経を疑いたくなった。

そう言えばあのときも、スケジュールの都合で遅く来たギグァンと高所恐怖症の僕とヒョンスン以外は、楽しそうに乗っていたっけ…。
まあ、合流したギグァンも連れて行けば楽しそうに乗って、僕とヒョンスンが巻き込み事故に遭わされていたけどね。

テグンはBEASTと違って、自分の立っているところに来いとは要求しない。
怖いならそこに居たら良い、と顔が物語っているけど…テグンも反応が薄いから物足りないんだろうし、番組的には僕にもあそこに立ってほしいところだろう。

ガラス床があるって知っていたら、絶対にこんなところには来なかったのに。
こうなったらもう、死ぬ覚悟で乗るしかない。



「て、テグン。ちょっと、手を、貸して…。」

「ん。」



とは言え、ひとりでは流石に無理だ。
BEASTのときと同様に、誰かに掴まっていないと立てる気がしない。

テグンに手を差し出し、恐る恐るガラス床のガラスの上…ではなく、ガラスではない、普通の床の部分に足をかけた。
東京タワーの頃から成長していないけど、僕にはこれが精一杯だから目を瞑ってほしい。
高所恐怖症からしてみたら、こんな高さは死ぬとしか思えないから。

空だけを見るように配慮して、綺麗ダネ、と少し片言になりながらも感想を述べる。
そんなときだった。



「…わっ。」

「!!」



滑るようにしゃがんだテグン。
テグンの手を掴んでいたから僕の身体もバランスを崩し、心臓が飛び跳ねる。

テグンと言いBEASTと言い…。
どうして高所恐怖症の人間をそうやってイジメる癖があるんだ?
僕は普段、人の恐怖心を煽ることなんてしていないのに(多分だけど)。

人の恐怖心を煽ったくせに、無表情で平然としているテグンに対する苛立ち。
それから死ぬと思った恐怖心から、情けなくも涙が出そうになってきた。
うん、絶対に流しはしないけど。



「!…ごめん、なまえ。」

「…知らない。テグンなんてもう知らない。」



世の中、やって良いことと悪いことがある。
テグンがやった行動がたまたま僕からしてみたら悪いことで、怖くて堪らなくて。
ヒョンスンと握っていた手ではなく、驚かせてきた人と直接手を繋いでいたから、あのときよりも恐怖心は大きかった。

僕が本気で怒っていることは、テグンにも伝わったようでかなり謝られる。
ネタバレするように「カンペに書いてあったから平気なのかと思った…」と言われたら、僕はもうテグンに対して怒れなくなってしまった。
スタッフ、許さないからね。

取り乱した僕の行動で、スカイツリー見学は予想よりも早くに終了した。
こんなところ、もう2度と来ない。



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