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スカイツリーから降りて休憩という名のランチをすると、さすがに落ち着きを取り戻した。
あれが放送されると思ったらすこぶる恥ずかしいが、背に腹は変えられない。
2回目を撮れるほど、僕はあの高さに対して耐久がついていなかった。

そして次への目的地をどうするかと車の中で相談しようとしたとき、僕の携帯に番組からメッセージが送られて来た。
なるほど、良いことを訊いたよ。
でもあのガラス床のやらせは許さないからね。



「テグン、車出すからシートベルト締めて。」

「…?何処に行くんだ?」

「それは着いてからのお楽しみで良いだろ?」



何処へ行くのか気になるらしいテグン。
そんなテグンに行き先を告げずに、僕は番組スタッフから教えられた場所をナビに入れて、また運転をはじめた。

ちなみに、ナビの案内が遅いことで道を間違えて怒ったことも、言わなくても伝わるだろう。



「…ここは?」

「まあまあ。入れば解るよ。多分。」



何度か道を間違えながらも、やっと到着した。
日本の地理には当たり前に疎いテグンだからこそ誤魔化して、会場の中に入る。

ここでは今日、BTOBの日本シングルの発売記念イベントを行っていた。
まさか社長がウギョルと合わせたワケではないと思うけど…、なにかしらかの裏があるような気がする。

入れば解る、とテグンには言ったが、イベントはまだギリギリ始まっていないらしい。
周りのファンにバレないようにカメラも小型に切り替え、テグンと僕も完璧に近い変装をしてスタッフに挟まれて並んだ。



「…イベント?BTOB?」

「へぇ、よく解ったね。今会場で流れてるの、日本語の新しい曲なのに。」

「いや…パネルに書いてある。」

「あ。」



イベントが始まっていない以上、メンバーが出て来なければ解らないと思っていたのに。
まさかパネルがあったなんて、周りを見ていなかったから見落としていたよ。

テグンには何をするかバレてしまったけど、まあ大丈夫だろう。
基本的に無表情なテグンだから、無表情のままならBTOBにはバレないはずだ。

まあ別に、バレても良いけどね。
バレた方が面白そうだし。



「うわ、うるさっ。」

「…普段は解らなかったけど、こんなに響いてるものなんだな。」



ようやくメンバーが登場し、会場がワッと一気に盛り上がった。
いつもならステージ上から訊いていた歓声も、ファンの中に埋もれているとなかなか鼓膜に響いてきて辛いものがある。

少しずつ進んで行く列。
どうやらこれは、握手会らしい。
あいつら(BTOB)は僕に気付くのかな。

CD購入特典で配られる握手会の券。
それを僕の前に居たスタッフが僕たちの分も全部渡し、ほぼ顔パスと変わらない形で握手待機の列に入っていった。



「ありがとうございま…あれ?」

「あり…がと、え?」

「愛してま…んん!?」

「…ミンス!?」

「え、ミンスヌナ?」

「レオも!?」

「ミンス、なんでここに!」



ヒョンシク、プニエル、ソンジェの順で怪しい反応を見せながらも、スムーズに進む。
するとまずチャンソプが僕に気付き、そこからファンもみんなまとめて存在に気付いた。

突然のBEASTの登場に、BTOBは唖然とし、ファンの子たちは悲鳴を挙げる。
いや、悲鳴と言ったら失礼か。
歓喜の声、とも捉えられる声を出していた。

相変わらず無表情なテグンに視線を送り、取り敢えず全員との握手を終わらせる。
バレたとなるとそのまま捌けると危ないので、ひとまずBTOBの後ろに並んだ。



「驚いてたね。」

「はぁ…そういうことか。怖い先輩だな。」

「僕の何処が怖い先輩なんだ?」

『レオ!ミンス!ぼっくたちの、うしろ、イチャつかないで、ください!』



BTOBのメンバーが握手をしている姿を見守りながら、BTOBの驚いていた顔を思い出しながらテグンに驚いていたねと言えば、呆れたように怖い先輩だと言われた。
そこまで怖い先輩のつもりはないのに、テグンもなかなか失礼な奴だと思う。

あまり大声でやり取りは出来ないし、大きく動くことも出来ないから隣に立っているテグンの腕を突っついてやった。
するとそれがファンには見えたのか、またしても黄色い声が飛び交う。
そしてその声の中に微かに聞こえてくる、"ウギョル"という単語。

もしかして、この子たちはウギョルというものを知っているのだろうか?
ウギョルの撮影地でもある韓国に住む僕でも知らないのに、最近はすごいんだね。

ファンの子たちの反応で解ったのか、わざわざマイクを持ったままミンヒョクが振り返り、文句を言ってきた。
それに対して聞こえない振りをするのはいつものことで、ミンヒョクは拗ねている。



「ヌナ、せっかくなんでメロディーのみんなにお話ししてください。」

「なんで僕が?僕ちょっとトイレ行かなきゃいけないから、そろそろ帰るよ。」

「いや、なんでトイレ?」



トークは最初で終わったはずなのに、僕が居るからなのかマイクを向けられる。
こういう類いのものは自身のライブ以外では好まないとこいつらも解っているはずなのに、どうして話しを振って来るんだか。

上手い具合に逃げようとしても、BTOBのファンから"え〜!"と声を浴びせられる。
キミたち、BTOBのファンならそれらしく、大人しくしてくれないかな。
僕はBTOBじゃなくて、BEASTだよ。

とは言っても、この中にはもしかしたら「自分はBeautyだ」という子も居るかもしれない。
ここは日本…、韓国のように一途な人はあまり居ないだろう(多分だけど)。
そう思うと、邪険に扱おうとは思えなかった。



『こんにちは。BEASTのミンスです。知ってると思うけど、こっちがVIXXのレオ。』



仕方なくマイクを受け取り、取り敢えず僕とテグンの紹介を済ませる。
僕は一言二言で終わらせたいのに、ポンコツ馬鹿集団(BTOB)が話し掛けて来るものだから、終わらせるタイミングが見当たらない。

こいつら、帰国したら覚えておけよ。
扱き倒してやる。

だけど僕が話せば、周りの子たちは興奮したように声をあげていて。
他のグループでの登場なのに、こうも騒ぎ立ててもらえると優越感のようなものを感じた。



『みんな、僕たちがここに来たことは内緒にしていてね?守れなかったら…そうだ、BEASTの仕事があっても僕は当分日本に来ないから。』

「ヌナ…それどんな脅しですか。」

「本当ミンスって物騒だよなぁ。」

「社長が許すわけないのに…よく言うよ…。」



今回ここ(日本)に秘密で来ているのは、ウギョルの収録のため。
だから言わないように念押しすると、みんな気持ちの良い返事をしてくれた。

あの馬鹿集団が言っていることは気にしない。
例え漏らされでもしたら、僕は本当に当分、日本へは来ないだろう。
それくらい、社長に直談判出来る。

最後に、これからBEASTがまたお茶の間に出て僕も活動するとだけ宣伝して、僕とテグンはこのイベント会場を出た。
…そう言えばテグン、しゃべってなかったけど日本語、苦手なのかな。



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