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今回手渡されたミッションカードの内容は、至ってシンプルなもの。
「"晴れて夫婦になった記念として、プレゼントを贈りましょう"……プレゼント?」
そう、プレゼントを贈る、というものだった。
つまり僕はテグンへのプレゼントを準備しなければならないわけで、だからこそ今回はテグンとは別行動を取るらしい。
プレゼントと言っても、何を贈ったら良いのかさっぱり見当もつかないな。
悩みに悩んで思い浮かんだのが、ドンウンに訊いてみよう、というもの。
ミンスには困ったときのドンウンが居る、とファンに言われているが事実なので否定しない。
スタッフに確認を取り、OKが出たのでスピーカーにしてドンウンに電話を掛ける。
ドンウンは10秒も経たないうちに、電話に出てくれた(暇だったのかな)。
−なまえ、なに?今収録中じゃなかったっけ?
「収録中だよ。それは良いんだけどドンウナ、男へのプレゼントって、何を贈れば喜ぶの?」
−良くないと思うけど…。プレゼントなら、別に何を貰っても喜んでくれると思うよ?
電話に出たドンウンに、早速テグンへなんのプレゼントを贈れば良いのか訊くが。
模範解答としか思えない返答が来るので、思わず溜息が溢れてしまった。
本当に、何を貰っても喜ぶと言うのだろうか。
そうだとすればそれは本当の恋仲にだけ存在するものであって、僕たち仮想の夫婦じゃ喜んでもらえないような気がしてならない。
まあ、ここまでして本気で喜んでもらわなくても良いんだろうけどね。
でもどうせあげるなら、やっぱり少しくらいは喜んでもらいたいじゃん。
−あ。ミンスの特技で良いじゃん。
「特技?」
−ほら、まだ公開してない特技。
「…それで、歌えと?」
−そうそう!気持ちが詰まってる、良いプレゼントだと思うよー!
「じゃあ僕まだ仕事あるから!」、と言って切られてしまった電話。
聞こえてくるのは機械音のみで、本当に電話を切られたのだと解った。
ドンウンが言う、未だに公開していない特技というのは…思い浮かんでいる。
公開していないものと言えば、ひとつしか残っていないからだ。
だけどそれを公開し、プレゼントとして使うためには…僕が歌わなければならない。
歌はあまり得意ではないとずっと言っているのに、あのでくのぼうは…。
「…仕方ないか。」
悩んでいても仕方がない。
タイムリミットは書かれていないが、どうせ制限時間はあるのだろう。
事務所のとある一室に向かうと、当たり前にカメラも付いて来る。
自己満足の世界であれば良いのだが、カメラがあるとどうも緊張してしまう。
まあ、決めたんだから今さら緊張だなんだと言っている場合ではないのだけど。
辿り着いたのは、真っ黒なグランドピアノが置かれている練習室。
ポンと軽く音を鳴らすときちんと調律されていたのか、綺麗な音が鳴った。
椅子を引いて座り、中心を合わせる。
ピアノを得意とはしてあったが、人前で弾いたこともなければピアノで歌ったこともない。
上手く出来るか不安ではあるが、ここまで来たらやるしかないだろう。
「"キミを見つけられない 苦しくて眠れない"」
今でも覚えている、お気に入りの曲。
譜面がない状態でイントロから恐る恐る鍵盤を叩いてみるが、意外と弾けるらしい。
軽く口ずさんでいると、スタッフからなんの曲なのかと訊かれた。
「これは…昔、僕が好きだったヴィジュアル系バンドのヴォーカリストが新しく始めたグループのお気に入りの曲、ですね。」
"冬の幻"という曲が、僕は好きだった。
もっと好きなのもあるけれど、これはなんだか儚くも力強くて気に入っている。
この曲が発売されたとき、僕は既に韓国に居たから、ジン兄にワガママを言って送ってもらったのは懐かしい記憶だ。
ドンウンからはよく、何観てるの?、と言われていたが、答えることは一度も無かった。
言っても解らないと思ったからね。
指の運動が済み、次は本格的に練習を始める。
テグンに贈る歌は…"冬の幻"と同じヴィジュアル系バンドの曲、"愛してない"。
「"愛してない 愛してるよ ねぇ あのね"」
この曲もとても綺麗だから、お気に入りで。
"わたしの強がりなクセ"という歌詞がなんとなく、僕に似ているような気がしたから選んだ。
2番で"別れの予感"なんてあるけど、まあ難しくは考えないだろう。
どうせ大半の人は日本語は解らないんだ、"愛してる"の文字があれば…多分大丈夫だ。
久しぶりにゆっくりピアノと向き合ったが、身体は案外覚えているらしい。
まあ、毎日のように弾いていたからこそ…のことなんだろうけどね。
ドンウンに呆れられても、この人の曲だけは毎日のように弾いていた。
「"離してよ 離さない 帰らせて 帰さない"」
譜面だけでなく歌詞もスムーズに出て来るし、あまり問題はなさそう。
歌唱力に自信がないから気は進まないが…ドンウンの言葉を信じるしかないな。
歌っていて浮かんでくる、ふたつの顔。
ひとつは薄らぼんやりの状態だけど、誰かはかろうじて解る程度。
そしてもうひとりは…ハッキリと出ていた。
あの日からこの類いの曲は聴かないと決めていたし、歌わないと思っていたのに。
まさかこんな場で歌うとは思わなかった。
レパートリーが少ない僕も悪いんだけどね。
"イエス"だけは…まだ、歌えそうにないな。
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