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どうやらプレゼントは、この部屋で受け渡しをされるらしい。
雰囲気も何も無いな、とは思うけど、身体が覚えた感覚で弾いている僕からしてみたら、それは有り難いこと。
テグンを待つこと数十分。
ようやくテグンが此処に到着した。
「…で、どうしたら良いの?」
テグンが到着したのは良い。
だけどどうやってプレゼントするかは解らないままだし、これじゃただの放送事故だ。
どうしたら良いのかとスタッフに投げ掛けるつもりでテグンに問えば、スタッフが殴り書きをしたカンペを見せてきた。
なるほど、僕から先にプレゼントするわけね。
座っていたところから立ち上がり、ピアノに向かって歩いて行く。
この緊張には、未だに慣れることがない。
まるで子どもの頃の発表会に出ている気分だ。
「…なまえ、ピアノ弾けるのか?」
「多少はね。完璧じゃないけどある程度は。」
カメラだけでなく、テグンも僕を見ている。
ここにはライブや音楽番組とはまた違った緊張があって、身体に力が篭った。
身体を解して、鍵盤に指を置く。
大丈夫、歌には自信ないけど僕なら出来るよ。
「"愛してるの 愛してるの もう声にならないくらい あなたがそう想うよりも"」
歌と同時に始まり、鍵盤を叩いていく。
多少声と手は震えていたものの、中盤になると流石に震えはなくなった。
いつもラップばかり歌っていた僕。
そんな僕の弾き語りは、珍しいだろう。
まあ、クラシックギターを使って弾き語りをする姿は何度かライブで見せたけど。
最後の最後、余裕が生まれてチラリとテグンに視線を向けると、テグンは瞳を閉じて真剣に聴いてくれているようだった。
………寝てないよね?
「…はぁ。」
「綺麗だった。歌声。」
「…ありがとう。」
弾き終わり、ピアノから離れると身体からすべての力が抜け落ちる。
力は抜いていたつもりだけど、多少は力んでしまっていたらしい。
テグンに「歌声が綺麗だった」と言われ、なんだかむず痒い気分になる。
歌を褒められたのは、いつぶりだろうか。
歌に関しては、ジン兄には一切勝てなかった。
ダンスやラップであれば勝てたけど、歌だけはジン兄に勝つことは出来ず、ある種…僕の数少ないコンプレックスとも言える。
だからそれを褒められたら、やっぱり嬉しい。
ありがとう、と顔を逸らしながら言ってしまったけど、伝わってくれただろうか。
それをテグンに言われて、僕がとても嬉しいと思っていたことを。
「次は…俺。」
「ん?なんだい、これ。」
「開けて。」
少しして「次は俺」とテグンが言って僕に手渡されたのは、ひとつの袋。
プレゼント用に包装されているそれを見て、歌じゃなくて物を贈った方が良かったんじゃ、と一瞬の焦りが生まれてきた。
そんな焦りを出さないようにしつつ、渡された袋を言われるがままに開封する。
袋から出て来たのは…箱?
これは、と思ってテグンに視線を送ると、それも開けろと目で訴えてきた。
そして箱も開けると出て来たのは指輪で。
しかも、僕が好きなブランドの指輪だった。
「これ…!」
「…お揃い。結婚指輪だから、あの店の中でもシンプルなのを選んだ。」
僕が普段好んで着けるような、派手でいかつい指輪…とかではない。
あそこのブランド特有の絵柄も指輪に彫られてはいるが、それも嫌味なくシンプルで。
テグンはこれを、結婚指輪と言った。
わざわざ店を探したのかは解らないけど。
結婚指輪と言えば、イメージ的に僕の好まないデザインを選んでもおかしくはないのに、こうして僕好みを尊重して指輪を選んでくれたことが、純粋に嬉しかった。
それにしても、スタッフもよく許可をおろしたものだなと感心する。
あそこの店、雰囲気からして結婚指輪とは程遠いのに…心が広いのかバカなのか。
でも、だけど…。
「…ありがとう。」
「!」
とても、嬉しかった。
今まで恋人から指輪などのアクセサリーを貰ったことがなかったし、僕の好みを尊重してくれたテグンの優しさが素直に嬉しくて。
自然と緩まる頬に一切抗うことなく、心のままにお礼を言った。
でもやっぱり、苦手な歌のプレゼントはイマイチだっただろうか…。
この指輪は値が張るし…例え番組持ちだとしても、なんとなく申し訳ないと思える。
「…なまえのプレゼントも、嬉しかった。」
「え?」
「指輪…値段が高いから気にしてるんだろ?でも俺は、なまえが俺のために…ピアノを弾いて歌ってくれたことが嬉しい。」
ああ、もう、なんだ。
これは番組だって解っているし、演技をしろと最初の頃に言ったのは紛れもなく僕なのに。
恥ずかしそうに言葉を連ねるテグンを見て、胸がギュッと締め付けられる。
顔だけじゃない、耳も首も…ほぼすべての部分が真っ赤なところが胸に来る。
−−−僕ハコレヲ知ッテイル。
ジュンヒョンにも、「もう恋愛はしない」と宣言したばかりだと言うのに。
僕はこのギュッと締め付けられる感情が何か知っているし、解っているからこそ戸惑った。
僕は、テグンを…好きになっている。
さりげない優しさも、初々しい新鮮な表情も、たまに反抗するくせに遠慮がちなところも。
全部ひっくるめて、惹かれているんだ。
もしかしたら、こんな番組をやっているから錯覚しているのかもしれない。
けれどこの懐かしい感情が、僕は嫌だとは到底思えなかった。
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