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パンケーキを食べ終えて、取り敢えず散歩でもしよう、となってそこらへんを適当に歩いていたとき…そう言えばと思い出す。
「テグン、テグンは何がしたい?」
「…俺?」
「うん。僕だけじゃなくて、テグンがやりたいこともやらなきゃだめでしょ。」
これは夫婦番組なのだから、どうせなら僕がやりたいこととテグンがやりたいことをして収録を終えた方が良いだろう。
そう思ってテグンに何がしたいかと訊いてみるものの、先程の僕同様、テグンもまた…何をしたいかと悩んでいるらしかった。
まあ、普通そうだよね。
普通なら、そんなに急に言われてポンポンと浮かび上がらない。
本当、この番組は難しいミッションを簡単に差し出してくるから困るよ。
「…なんでも?」
「?別になんでも良いけど。」
「じゃあ…。」
しばらく考えて、テグンはやりたいことの何かを思い付いたらしい。
なんでも良いのかと確認してくるテグンを不思議に思ったが、特に気にすることはなく別に構わないと言えば、テグンは僕の腕を掴んで何処かへと向かって歩き出した。
テグンはいったい、何を思い付いたんだか。
けどまあ、テグンはなんだか嬉しそう…いや、楽しそうだから良いとしよう。
最初はそう思っていた僕だけど、それを後悔するのはあと少し。
テグンの"なんでも"は"ろくでもないこと"だとインプットされたのも、そのときだった。
「…なにこれ。」
「あげる。着替えて。」
「意味が解らない。」
連れて来られたのは、一件の服屋さん。
かわいらしい服が立ち並ぶ中、嫌な予感がしつつも買い物をしているテグンに目がいく。
家族か誰かに買っているんだよね、と信じてみたのも無駄なことで。
テグンは買った服などの一式が入った紙袋を、買ってそのまま僕へと渡してきた。
「ヤだよ。なんで僕が着なきゃいけないの。まず似合わないでしょ。」
「ウィッグはたぶん、ウギョルのスタッフが用意してくれた。」
「いや、そうじゃなくて…はぁ。もう良いよ。着替えれば良いんだろ。」
イヤだと伝えてみても、テグンは僕の話しをまったく聞こうとはしない。
女装(ではないけど)するのはミュージックビデオ以外では無いことだし、乗り気では無い。
ミュージックビデオのときでさえ、散々社長にブーイングを飛ばしたんだ。
そう簡単に着る覚悟なんて出来やしない。
けれど結局、負けてしまったのは僕。
仕方なく試着室に行って着替えるけど…これ、スカート短過ぎないか?
足が寒いんだけど。
「着たよ。」
「……………。」
「…何か言ってよ。恥ずかしいだろ。」
着替えて試着室から出てみるが、どうも似合っているような気がしない。
それは髪型のせいで感じるアンバランスなのかは解らないけど、確実に不似合いだ。
嫌だとは思いつつテグンの前に立つと、テグンは目を丸くしたまま僕を見つめた。
しかも何も言わないものだから、なんだか晒し者にされているようで羞恥心が募っていく。
なんでも良いから反応してくれないかな!
「……かわいい。」
「!」
なんて思っていると、不意に言われたのは"かわいい"の一言。
それを言ったテグンは顔が真っ赤で、なんだか僕までさらに恥ずかしくなってしまう。
ああ、顔に集まる熱が鬱陶しい。
テグンは僕から顔を反らしているし、僕もテグンに顔を向けていないから、絵面はかなりシュールなものになってると思う。
だけどそんなことも気にならないくらい恥ずかしいし、テグンの顔を直視出来そうにない。
僕という人間は、こんな人間だっただろうか。
テグンと触れ合うことで、なんとなく…自分が変わっているような気がした。
「…メイク、終わったら散歩に行こう。」
「ん…。」
テグンに言われてメイクに入る。
あんなあからさまに照れられるとこっちだって照れるし、なんと言うか…。
期待、してしまう。
こんな期待、抱いてはだめなのに。
もし仮に期待通りになっても、僕の存在はテグンにとって大きな壁となる。
そう言い聞かせてなんとか気持ちを押し込むけれど、ああ、どうしよう。
思わず爆発してしまいそうで…少し怖い。
「…かわいい。」
「…さっきも訊いたよ…。」
メイクが終わってウィッグも被り、ウギョルの収録が再開する。
久しぶりのヒールは慣れず、上手く歩けないし早く歩くことも出来ない。
それはテグンに伝わっていたらしく、ギュッと繋がれた僕とテグンの手。
「危ないから」と呟いたテグンの言葉は、まさに優しさで溢れていた。
それにしても、ヒールとは歩きにくいな。
ヒョナたちはよくこんなものを履いて踊ったり出来る、と感心してしまう。
「……………。」
「…?どうしたの、テグン。」
「…やっぱり、着替えて。」
「は?これはテグンが望んだんだろ?」
「…だめ。ごめん。着替えて。」
心の中でヒョナたちに感心していると、テグンがぴたりと立ち止まる。
どうしたものかと思っていたらテグンは僕の方を見て、やっぱり着替えて、と言ってきた。
別に、普段の動きやすい服装になれるのであればなんでも良いけど。
テグンが望んだことだと言うのに、どうしてこんなにも早く元の服装に着替えさせられるのか到底理解出来ない。
スタッフたちもそれには混乱しているのか、少しだけ周りがざわついている。
メイクまでしたのに振り回すのはだめだと思ってテグンに抵抗しようとしたが、テグンが不機嫌そうだったので思わず言葉を飲み込んだ。
「…テグン、」
「…はぁ。…ごめん。妬い、た…。」
「……妬いた?」
「たぶん、なまえが…かわいいから。見られてるから、いや…だった。」
不機嫌そうと言っても、あの面倒なメンバーと比べたらやはりそうでもない。
だから今度は落ち着いて話かけようとすると、テグンは勝手に説明し出した。
どうやらテグンは、周りが僕に向ける視線に嫉妬したらしい。
さっきよりも真っ赤になって、必死になって言葉を繋げるテグンに胸が締め付けられる。
もう、本当に、キミは。
蓋をして押し込めたいのに、どうしてそんなに簡単に僕の決意を狂わせる?
必死にそんな気なんてないようなフリをするのって、結構疲れるんだよ。
僕の中の悪魔が、我慢するな、と囁いた。
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