▼ 頼りになる
「また失敗したー!!」
どさりと積み重なっている書類の山。
それは過去のプロファイリングと今回の事件の始末書で、僕が失敗したことを表していた。
プロファイリングとは、過去の事件を前列と重ねて割り出す推理。
僕は下っ端ではいるが、プロファイリングを扱う一員として捜査に協力しているのだけれど。
これがまったく、当たらない。
上司のハギョン警部補は、誰にでもミスはあるから、と言っていたものの、僕に関しては捜査ミスの量が多過ぎる。
だからこそ、未だこの事件は未解決のまま。
「なんでハズレるかなぁ…。」
「馬鹿ね。あんたはプロファイリングとやらに頼り過ぎなのよ。」
「!なまえさん!」
一枚のプロファイリング用紙と睨めっこしていると、その紙が目の前から消えた。
と思ったら、すぐ上から降ってきた、凶悪事件ばかりを担当する課に所属する唯一の女刑事、なまえさんの声。
なまえさんは僕の手からプロファイリングの資料を奪ったあと一瞥し、それをくだらないと言って投げ捨てた。
それを慌てて拾い、ジロッと睨めばなまえさんはクスッと笑みを浮かべる。
なにが面白いんですか、と言えば、いいえ別になんでも?、と言われ、腹が立つ。
けれど彼女は優秀な刑事のひとりで、いくつもの難事件を解決に導いている人。
そんな彼女に、僕は太刀打ちなんて出来そうにも無かった。
「あんたはプロファイリングに頼り過ぎ。」
「…さっきも聞きましたよ。そ!れ!に!プロファイリングを馬鹿にするということはそれを編み出した過去の先輩方を侮辱することにもあたりますからね!」
「別に、あたしは過去の先輩方を侮辱してるつもりはないわよ?」
僕の後ろから一旦離れ、僕を見下ろすように隣に立ち並ぶ。
その様は怒っているときのテグン警部補よりも恐ろしく思えるもので、思わず押し黙った。
なにも言わない僕が面白いのかなんなのか、彼女はもう一度くすっと笑って屈み、僕と視線を同じ高さに揃える。
警視庁一の美女と謳われているだけあって、彼女の美貌に、思わず見惚れてしまった。
それがちょっと、悔しかったり。
「プロファイリングはあくまでも可能性の話でありこれを確たるものとして捜査するのではなく参考として捜査しなければこのように思わぬ落とし穴にハマってしまう。…違いますか?ジェファンけ・い・じ。」
「うぐぅ…っ。」
彼女が言うことは悲しきかな、納得してしまうことばかり。
確かにプロファイリングは今までの犯罪から憶測として作り上げられたもの。
それを確たるものとして調査することは間違っている、と思うけど…。
だけどやっぱりプロファイリングというものを頼ってしまうし、尊敬する先輩たちが作り上げてくれたものだからと、確たるものとして使いたいとも思ってしまう。
まあ、その考えが間違っているんだろうけど。
でも、僕はまだまだ未熟者で…。
こうやってプロファイリングに頼るような捜査しか出来ない。
それが駄目なんだろうけど、今の僕にはプロファイリングに頼ること以外の捜査方法が解らなかった。
「それじゃあ、約束通りこの子は借りて行くわね。ハギョン警部補。」
「へ?」
「うん、よろしくー。」
「ちょ、どういうことですか!」
僕が悶々と考え込んでいると、なまえさんに手を掴まれて無理矢理立ち上がらされた。
約束通り僕を借りる、と言うなまえさんに笑顔を向けるハギョン警部補。
借りる、はまだ解るとして、約束って…?
そんな疑問をハギョン警部補にぶつける前に、僕はなまえさんに引っ張られてなまえさんの車に乗せられた。
「あの…。」
「今回、第二課であるわたしがこの事件捜査に協力する条件として、あなたを借りることを提示したのよ。」
「え、なんで僕を…?」
「プロファイリングにしか頼れないあなたに、プロファイリング以外での事件解決方法を教え込むため、かしら?」
車に乗って、走ること数分。
疑問を口にするため、あの…、と声を掛けると同時になまえさんが言葉を重ねた。
僕をわざわざ借りたのは、どうやら僕にプロファイリング以外での捜査方法を教え込むため、らしい…。
どうしてわざわざ僕に?、とは思ったけど、なんとなくそれは訊いたら駄目な気がして訊くことは出来なかった。
*
「すごい…。」
「こんなもんよ。」
なまえさんの手に掛かると、あの事件も簡単に解決へと導かれた。
その捜査方法は鮮やかで、もともとあった資料をもとに解決したらしいんだけど…。
それだけじゃなく、捜査においての観点もすべてが違った。
そのスムーズさに感心していると、ペチッと頭を叩かれる。
いたたた、と痛がっていると、あなたもこれくらいプロファイリングを頼らなくても出来るようになりなさい、と言われた。
なまえさんの捜査に、プロファイリングはほぼ使われていない。
使われていることと言えば、自宅を割り出すことくらいで…他は特に。
「あの課で鍛えられてから第二課へいらっしゃい。そうしたら、"今度は"迎えてあげる。」
「え…?それってどういう…。」
「さーて、戻ろうかしら。」
「ちょ、なまえさん!教えてくださいよ!」
なまえさんは意味深な言葉を言ってから、そのまま車に戻って行った。
その意味を訊こうとしても、なまえさんは一切教えてくれない。
でも、だけど。
それでもなまえさんの姿はすごいと思えたし、ついて行きたい、憧れる、と思った。
今度は、っていうのが引っ掛かるけど…。
いつかなまえさんと並べるくらいになれるように頑張ろう、と思えた。
頼りになる
先輩として、本当に頼りになる人だ。
(ジェファナー。)
(どうしたんですか?)
(今度は第二課行けると良いね。)
(え?)
(最初は第二課だったんだけどさー。)
(はい。)
(なまえさんが要らないって断って。)
(え!?)
(見込みはあるって言ってたよー?)
((そういうことだったんだ…。))
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