星降る夜に雨と踊る
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  • 二話

     あれから二か月くらい経ったころ、集会で新しくちょっと偉い人ができた。

     所属しているチームにはある程度の集まりがあって、その集まりを隊として編成している。今回はそのうち、三番目の隊の隊長が新しく就任したんだとか。俺はその日の集会も欠席している。

     ただ、就任を不服に思った人がその隊長を殴り飛ばしてしまったとかでなんやかんやあったらしい。そしてそのなんやかんやに合わせて、一番目の隊の隊長がチームを抜けてしまったのだった。ちなみに抜けた隊長の隊は俺も所属している隊であった。あらら。

     所属しているチームは輪を大事にするチームなので、隊長が抜けたからってすぐに隊長を挿げ替えるわけではない。今回は唐突な抜けもあって一時的に隊長のポストは不在になるようだ。

     ざあざあと雨音がガラスを叩く中、自分の部屋の机で芯の出ていないシャーペンをぱんぱんとノートにぶつける。さてどうしたものか。隊長が抜けることはまあいいとして、副隊長は隊長のことをかなり慕っていた。ついて行っても不思議ではないなぁと思うのだ。
     とはいえ、さすがに副隊長として残るやつに何か引継ぎくらいはしてくれるだろう。今抜けたという話は聞いていないので、チームにはまだ在籍中だろうし。今から未来の心配をしてもいいことはないかもしれない。

     ……。考えるの飽きた。やめよう。
     自分の部屋から出てリビングに顔を出す。最近行けていなかった妹の墓参りでも行こう。


     雨が降っている現在、俺は合羽をびしょびしょに濡らしながら墓石の影に隠れていた。

     というのも、どうやら墓参りデーがブッキングしたらしく、佐野くんたちが妹の墓付近で会話をしているのだ。なんで雨の日に墓参りをする? ア、いや、俺もだわ……。

     会話を盗み聞きする限り結構深刻な話だった。

     こんなところで「どうも」とかチームの人間が現れたらどうだ、ちょっと気まずいだろ。友人が兄貴のところに強盗で入って人を殺したとか言われたらどんな顔すればいいのかわからない。
     しかも今でも首謀者である友人を許せないとか言われてしまったら……何も言えない。許せるほうが稀だ。大事な人を亡くしてしまったのに、元凶が罪の意識もなく生きてたら、俺はどうしようもなく怒り狂う自信がある。

     あわわ……重い……話が重いよ……。

     ふえぇぴえんと盗み聞きしてしまったことに後悔しながら隠れ続けていれば、やがて佐野くんたちはぞろぞろとお墓から移動していったのであった。バレなくてよかった。

     それにしても、そうか、佐野くんも許せないのか。


    ―――
     花垣武道は、過去、未来で聞いた話を反芻していた。

     己が関わっている不良チーム、東京卍會――東卍の総長、佐野万次郎。無敵のマイキーと呼ばれる男の、周りで起きた事件を聞いた。

     二〇〇三年の八月中頃、兄の経営するバイク店に強盗が入ったこと。強盗が店で殺人を犯したこと。そして、その強盗が自分の幼馴染と友人であったこと。
     ――それが東卍の元チームメイトである場地圭介、羽宮一虎。現在芭流覇羅に所属している二人であること。

    「場地のことは許した。
     でも、知らなかったとしても、今更どうにもなんなくても、あいつを殺した一虎だけは……一生許せねぇ」

     雨の日の墓参りで告げられた言葉を思い出す。心情が理解できないわけではなかった。ただ、東卍を抜けたのにも関わらず場地を信じている松野千冬も、その信頼を一身に受けている場地のことも、武道は何も知らなかったからこそ、場地を信じ切ることができなかった。

     未来に帰ってきて、次にかつて副総長を務めていた龍宮寺堅の話を聞いた。彼は死刑囚となっていた。

     芭流覇羅は万次郎のためだけに作られたチームだということ、トップはマイキーだったということ。過去の抗争で東卍を乗っ取り、巨悪となっている東京卍會ができあがったこと。
     二〇〇五年に起きた芭流覇羅との抗争で、万次郎が一虎を殺したということ。
     ――一虎がその日に場地を殺めたということ。

     過去から戻ってきた武道に、当時の記憶はないに等しい。だというのに、話を聞くたびに瞼の裏にその光景が浮かぶものだから、それが「今」の過去なのだと理解せざるを得なかった。
     脳裏に浮かぶ記憶はひどく悲しく、むなしい。だから止めなければならない。

    「お前はあのときのマイキーの立場になっても、一虎を殺さない自信があるのか?」

     死刑囚の言葉が反芻される。

    「大事な人を殺した仇だぞ?」

     わからない。武道は人を殺したことなどないし、大事な人間を死なせないためにタイムリープしているのだ。でも本当に、万次郎の立場だったなら? やり直しなんてできなくて、過去に取返しがつかなければ?

    「……わからない」

     そのときにならなければ、本当にその心を理解することはできない。
     けれど、そんな事態には遭遇したくなかったし、遭遇させないために、自分は動くべきなのだと思った。

     二〇一七年、十月末。武道にとって第二のターニングポイントが迫ってきている。

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