星降る夜に雨と踊る
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  • 一話

     あの日から月日が経った。俺は不良の一人として、一つのチームに所属するようになった。

     不良といっても気に食わない人間と喧嘩するだけ、盗みだとか悪いことはしないし、夜に開かれる集会はほとんど出ない。

     親は自分がやんちゃしても、よほど人道に反することでなければ気にしないとは言ってくれている。けれど夜の街を歩くのはどうにも苦手で、できることなら避けたかった。なら不良になるなという話ではあるけれど。

     幸いなことに同じチームに所属する人は優しい人も多いもので、集会での話は人づてで聞くことができた。
     今回は八月三日、武蔵祭りの日に喧嘩をするらしい。同じチームの人の親友がモメたことが原因なんだとか。

     今回は不良以外の人にも被害が出たということで、ははぁ、それは引けないなぁと思った。

     何かお見舞いをと思って病院にこっそり顔を出したら、思ったよりも重傷でガラス張りの部屋に入れられていた。意識はなく、呼吸器や心肺を測る機械が付けられている。随分ひどい有様だった。

     ぼうっと見ていると、なぜかそこでチームの総長である佐野くん、副総長である龍宮寺くん、もといドラケンくんと居合わせた。あーあ、ばれちゃった。

     ドラケンくんはすでに話を聞いていたのか、病室に入った人の状態と、助けられたときのことを佐野くんに伝えた。俺も詳しくは知らなかったので、へぇという気持ちで聞いた。

     そうしたら隣から大声が聞こえて、見たら一般人らしい人たちが唾を吐く勢いで叫んでいた。

    「娘をこんな目に遭わせてのうのうと顔出しやがって!!」

     すぐに頭を下げて、そうしたらドラケンくんも頭を下げた気配がした。それでもなお浴びる罵声に、この人たちは病室の人の関係者なんだと悟った。ああ、消化しきれてないんだな。そうだろうな。

     ドラケンくんが大人しく頭を下げているので、合わせて頭を上げないまま様子をうかがう。反論しようとした佐野くんはドラケンくんの頼みで黙っていた。
     やがて俺たちに罵倒を浴びせていた人たちはじわじわと勢いがなくなって、弱弱しい声で「なんでだ?」と口にした。

    「あんな可愛かった娘がこんな変わり果てた姿で」

     声が震えていた。娘さんだったのか。それは……泣くだろうな。こんなところに入れられるなんて思ってもみなかっただろう。受け入れるのにも時間がかかるのは仕方がない。

     やがて泣いていた人たちは俺たちを突き放し、遠くのほうへ消えていった。ドラケンくんは佐野くんに思いやりの心を説いていた。

    「……ところで、お前はなんでここに居ンだ」
    「様子が気になって来ました。すみません」

     持ってきた果物はきっと受け取ってもらえないだろうから、家に帰って親と一緒に食べようと思う。



     その日から八月三日まででなんやかんやあったらしい。
     どうやら喧嘩の元になったチームの人が刃物を使って逮捕されたとか、佐野くんとドラケンくんが仲違いしたと思ったら仲直りしたとか、いろいろあった。
     当事者ではないので知らないけれど、佐野くんとドラケンくんを止めた人はチームの人ではない不良らしい。詳細はよくわからないけれど、止めてくれたことは感謝しようと思う。


     祭りの日はなぜか雨になりやすいというか、記憶に残るのは嫌な記憶のことが多いからか、縁起のいい日に晴れだった記憶は少ない。
     今日だってそうだ、祭りが終わる前から雲行きが怪しくなって、唐突に雨が降り始めた。

     無免許でバイクは乗りたくないので、誰かに相乗りを頼むわけでもなく歩いて現地に向かった。ら、喧嘩がすでに始まっていた。乱闘である。

     雨でびしょ濡れになった二つのチームがぼこすかと殴り合っている。

     駐車場が広いといっても自分たちが乗ってきたバイクが停められていて随分狭いのに、よくもこんなに戦えるものだと感心してしまった。もっと広い場所があればのびのびと喧嘩ができるのに、都会というのはこういうときに不便だ。

     喧嘩に混ざろうと駐車場に向けて歩いていると、反対に駐車場から出ていく人を見つけた。
     暗くて見えづらいが、服を見てドラケンくんが好きそうな服だと思った。多分ドラケンくんである。

     なんでよろよろしているんだろうと思って目を凝らしてみたら、なんとあのドラケンくんが誰かに背負われていた。
     ドラケンくんに喧嘩で勝つ人いるんだ。少し興味はある。

     しかしやはりというか、喧嘩で離脱しようとするドラケンくんを追従しようとする人間も少なくはないようで、後ろから白い服の人間がたかたかと走っていく。

     戦線離脱した人にやることではないなと思って殴る。殴り返されそうになったのでもう一発殴った。
     そうしたら別の人がこちらに拳を向けてきたので避けて足払い。
     体制が崩れたところを背中から蹴って、次に殴る予定の人間まで跳躍。殴る。
     ひたすら殴る蹴るを繰り返していれば、いつの間にか周りで立っている人がいなくなった。あっけない。

     人が立っている方向に顔を向ければ、相変わらず元気そうな佐野くんともう一人が話をしていた。向こうの総大将らしい。
     総大将は話を終わらせるとバイクに乗ってさっさと帰ってしまった。撤退までの判断が早いことはいいことだと思う、ウン。

     さて、喧嘩が落ち着いたところで現在の状況を尋ねると、どうやら先ほどのよろよろしたドラケンくんは刺されていたらしいことがわかった。突然の刃物である。
     愛美愛主と呼ばれていた今回の相手チームはなんでもするタイプだったので、刃物を出してきてもおかしくはなかったけれど。と思ったらこちらの人が謀反をやらかしたんだとか。治安が悪い。

     ドラケンくんの容態をうかがうためにみんなで搬送先の病院前まで行って待つ。手術まで行ったらしい、命が助かれば万々歳だ。

     チームの人たちがざわつく中でぼんやりと待ってどれほどの時間が経ったか、チームでも少し偉い立場にいる面々が来てドラケンくんの手術が成功したと告げた。その場にいる誰しもが安堵の息を吐いた。よかったよかった。

     佐野くんが伝えに来なかったのはなんでだろうと思ったけれど、ドラケンくんの生還に腰が抜けてしまったのかと思って詮索はしないようにした。
     人の命が助かった瞬間っていいよな、これからもドラケンくんには図太く生きてほしいものである。

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