ツクヨミサガシ
俺という存在は代替品である。
各県警の公安課、警視庁公安部、警察庁警備局。
主に知られている「公安警察」とはその三つの場所に所属する人間であり、それぞれ正体を知られないよう情報操作をしている。
もちろんこのどれに所属しようと、存在意義は大した差があるわけでもないだろう。せいぜい働く場所が違うくらいだと思っている。
しかし、実はこの中にひとつだけ含まれていない課がある。
世界が保有するNOCリストには掲載されてこそいるが、まるでそれを察知させない化物たちの集まり…警視庁の特殊捜査課、通称D課。
D課は公安内でもより高い情報隠匿率を誇っている。
誰が所属しているのか、どんな人間達なのか、年齢も経歴も、名前でさえも偽って過ごしていて、本当の人物像を知るものはいないという。
その特性上、D課という存在を知っていても、D課の人間が正直に「D課の人間として」他部署と連携をとることはないといっても過言じゃない。
しかしそんなことをせずとも、公安の仕事は内々であろうと秘匿される。
誰がどのように仕事をしているのかわからないというのは他と同じで、ゴミ分別のように課を分ける必要性は感じられない。
ましてやあまりにも奥地に追いやられた課に入る人間も限りなく少なく、お鉢を回される仕事なんてあっても数件。存在の定義を問われる課だ。
では、なぜD課というものができあがり、今も存続しているのか。
それはD課に配属された場合にだけ知らされる。
なんと俺という存在は特別にD課への配属を許された人間だった。つまり俺は、彼らの存在意義を知っている。
簡潔にいえば、現在のD課は「人探し」のための組織なのだ。
過去に集った十人前後の化物たちを招集し、国家のスパイとして各国に送り出す。
公安の中でも厄介な案件をこなしながら、顔もおぼろげなやつらを探し続けているのだという。
写真はあるのか、どういうやつらだったのか。探し人の情報は現在のD課の中でも知っている者と知らない者がいる。俺は知らない人間だった。
何も知らなければ人探しなんてできないだろうに。
そう思って上司に詰め寄っても、周りや上司本人は言葉を濁して特徴を教えてくれない。
知らないことを恐れて上司に反発しているからだろうか、なんとなく、俺という存在はD課の中で浮いているような心地がある。
俺と同じく探し人を知らない小田切(これは偽名だ)や佐久間さん(こっちは本名らしい)は、しかし俺と違って飲みに誘われたり色々なことを享受されているらしい。
俺は一度も何かに誘われたことはないし、何かを許してもらったことはない。どころか話しかけたらちょっと変な顔をされる。
もちろん、ミスを許してもらおうだとか、生ぬるい考えを持ったところで無駄だということは知っている。
D課は個人主義の輩の集まりだ。尻拭いは自分でやらねばならない。
そもそも自分の犯したミスを他人に拭ってもらうのはプライドが許さない。能力は平凡、誇りは世界に誇れる高さ、俺ってやつは面倒な人間なのだ。
と、まあ、ここまでやってきて、様々な面を考慮した上で出た結論が「いずれ辞職を促される」という、なんとも世知辛いものだった。
俺が特別だとかなんやかんや言ったところで、上司たちからするとただのお荷物だ。過去の仕事で自分が役に立った試しがない。
上から言われて渋々選んだ人間が俺だったんだろうとわかる程度には差を見せつけられたし、声に出されなくても雰囲気がそう言っていた。
ただ、言った通り俺の自尊心とやらはものすごく高いもので、自分から「合ってないので辞めます」とも言えないわけだ。
馴れ合わなくてもある程度仕事はできてしまうものだから。
だがもう限界は近い。
俺だけのけ者にされることは想像以上につらいものがあった。チヤホヤされたいなんて思ったことはないつもりだったが、ここまでハブにされると無意識の甘えが否応なしに自覚させられた。
せめて俺と同じような生贄がまた現れるまで頑張ろうかとは思っているのだけど、そこまでメンタルは耐えてくれるだろうか。不安だ。
集まってないのはあと3人。ハタノとタザキ、ジツイだけだというから、さっさと見つけてこの部署を去りたいなと思った。
だって俺は、探し人の代替品らしいのだから。