球体に浮かぶ

言っておくけど、ぼく弱いからね!
宣言した博士との勝負は、やはりというか僕が勝利を収めることとなった。しかし善戦したとは言え、炎タイプに得意なタイプがいないのは痛い。
一応ある程度のバトルを想定して手持ちを考えたりはしているけれど、炎と格闘が好きなので、たとい六匹持っていたとしてもそれほど状況の変化に強い手持ちになるとは思えない。

さっき紹介してもらったフラベベでも捕まえようかな。でもフラべべは…あんまり手持ちにしようとは思わないし、気が向いたら手持ちに加えるだけでいいか。

「うん、大体わかった!」

あとでポケモンセンターに寄ることを頭に置きつつ、ボールを腰につけなおす。博士はそんな僕の様子を見て頷き、満足そうに宣言。
一体何がわかったのか、僕とバトルをしているときもセレナちゃんとサナちゃんのことを観察していたみたいだけど。サナちゃんも不思議そうに「何がですか?」と首をかしげている。

「コトア!キミは面白いポケモントレーナーだね!もう一匹ポケモンを連れて行くといいよー!」

どうしてそうなった。

もう一匹、ポケモンを連れて行くといい。そう言って差し出されたモンスターボールは、確か先ほどまで僕のポケモンと退治していた三匹が入っていたはずのものだった。
ポケモンをもらって図鑑ももらって、さらに召集されたからと来ただけでまたポケモンをもらって。しかもこのポケモン、別の地方じゃ初心者向けの三体じゃないか。

博士の意図が全く掴めない。ポケモンを更に渡すってどういうことだ、僕が面白いトレーナーだって?
僕はもうトレーナーとして成長はしないと、博士だって知っているはずなのに。

「…この二人にも、渡すつもりなんですよね?」

「うん?」

「僕は一番最後でいいです」

せめてもの抵抗として博士に告げ、距離を取って逃げる。母さんがあのことを博士に伝えているとは間違っても思わない、それでも僕に声をかけてきたということは。

セレナちゃんとサナちゃんは二人で悩みに悩んだ末、セレナちゃんがゼニガメを、サナちゃんがフシギダネをとったらしかった。
つまり残ったポケモンはヒトカゲ。

僕がそのボールを手にとったのを確認すると同時に、博士は僕にまた別のものを手渡してきた。

「これは?」

「コトアだけには特別だ」

残念ながら、女の子二人が選んだポケモンのものは手元になくてね。苦笑いをこぼし、博士は頭を掻いた。結局、よくわからない物体の正体を教えるつもりはないらしい。
虹色に光っている…石、だと思う。ポケモンの能力値でも底上げするのに役立つだろうか。流石に貴重な進化に関係する石…とか、じゃ、ないはず。

「さて、ボクの読みではそろそろ全員が揃うね!」

ヒトカゲを選んだことで渡されたものだ、ヒトカゲに持たせろというメッセージなんだろう。あとで首からでも下げてもらおう。
プラターヌ博士が自信満々に言ったと同時に、姿が見えなかったティエルノくんとトロバくんが曇りガラスの向こう側からやってきた。二人もまだ付いてなかったのか。

僕、まさかそんなに急がなくてもよかったんじゃないかな。そう考えても後の祭りだった。

「よーし、みんな揃ったね!それでは改めて、みんなに!
最高のトレーナーを目指し、ポケモンとの旅を楽しんでよ!

そしてカロス地方のポケモン最大の謎!新たな進化の可能性!メガシンカの秘密を解き明かそう!」

ちなみに先ほどコトアに渡したのはリザードナイト、メガストーンだよ。
博士の言葉で、もらった石を乱雑に扱った過去の自分を殴ろうかと思ってしまった。メガストーンって、そんな貴重な研究材料を、なんで僕みたいな子供に。

本当にこの博士の考えが全く読めない。才能がある人はほとんどの人がどこかしらのネジが飛んでいると聞いたことがあるけれど、博士も例外なくその「ネジがぶっ飛んでいる人」に分類されるんじゃなかろうか。

「メガストーンは新たな姿!メガシンカの秘密の手がかりなんだよ!」

メガシンカというのは最近発見された、ポケモンの新たな進化方法だ。

その進化をするポケモンがどのくらいいるのかというのはまだ研究中らしい。
今のところわかっているのは、メガストーンと呼ばれる石を持ったポケモンと、キーストーンと呼ばれる石をもった人間との間で起こり得るものだということ。そしてその二者間では疑いようのない信頼があること。

プラターヌ博士は確か、そのメガシンカを研究している博士だった。その資料の関係で今回メガストーンを手に入れた、と。

リザードナイトと呼ばれるメガストーン。しかし、肝心の僕の方はキーストーンなるものを持っていない。成果を上げるには旅をして、そしてキーストーンを手に入れろということだ。
どうせここでいらないと突っ返したところで、博士がまた押し付けるに決まっている。ポケットの石はもう一度骨ばった手に触れることはなかった。

「ポケモン図鑑はどうするんですか?」

不思議に思ったのか、トロバくんが不思議そうにそう訪ねた。
確かにメガシンカの研究としてポケモンを鍛えるのなら、ポケモン図鑑を揃える必要はない。僕みたいに選り好みをして好きなポケモンだけを育てて…なんてことでもいいのだ。

博士は「それがトロバくんの考える最高のトレーナーなら、ぜひとも完成させようよ!」と努めて明るい口調でいった。

「はーいっ!サナはメガシンカが気になります!」

「メガシンカについて調べるなら、コボクタウンはどうかな?あそこは歴史のある街だし、なにかヒントがあるかもしれないね」

サナちゃんが元気よく博士に言うと、博士は次に行けばいいところを教えてくれた。一瞬だけ視線をこちらに向けた、どうやら僕も行くことを希望しているらしい。
ここまで貰っておいて、お礼の一つもないというのは忍びない。人としての心理を突かれてしまった気がする。

軽く頷いて肯定の意を示すと、プラターヌ博士も満足そうに笑った。やっぱりなんだか、この人に踊らされているような。

「いいかい?ポケモン図鑑を埋めるためにいろんなところに行けば、様々な生き方のポケモン、様々な考えの人と出会うことになるだろう!
ときとしてぶつかる生き方・考え方をまず受け入れ、何が大事かを考えることで、きみたちの世界は広がるんだ!」

生き方や考え方が違う人やポケモン。
僕はボールに入ったポケモンを思い出した。コウとセイも今は随分と大人しいけれど、あの二匹も随分と性格が違う。あのとき突き放したリオルも。

「どれだけ人と違うかが私の価値だと思うの。そういう意味で私、メガシンカを使いこなしたい」

セレナちゃんがそういったとき、僕の頭にはあのリオルが浮かんでいた。