Hello

別に聞かなくてどうということではないが、俺が自分をどう評するかというのを述べよう。
俺は普通でない組合に所属する、一般人の感覚を持った、ただの人間である。決して特別な能力があるだとか、崇高な理念を持っているだとか、そういうわけでもない。泥臭いなりに働いて日々を生きる社会人の一人だ。

「ちょっと、吸うなら出て行ってください。あなたのせいで部屋が煙草臭くなる」
「禁煙とは言われていないが?」
「僕が困るんですよ。この後任務なんですけど?」
「ホー?キミのハニートラップはそんなことで失敗してしまうのか」
「殺す。お前だけは僕が殺す」
「まあまあ、二人とも落ち着けって」

では、次に紹介をしたいと思う。目の前でコントを繰り広げている三人だ。ぶっちゃけた話、部屋にいたらなぜか三人揃って入ってきて喧嘩を始めただけで、今まで全く関わりのない人間だった。邪魔でしかない。
なんだこいつら、と、完全に不審者を見る目つきで睨んでいると、喧嘩を仲裁していた男がこちらを一瞥して「初っ端から不審がられてるぞ」と苦笑いをこぼして二人に言った。

「挨拶しにきた相手を怖がらせてどうするんだ」
「とても怖がってるようには見えませんが?」
「大の大人がただの喧嘩で怖がるわけがないだろう」

話の内容から察するに、俺に挨拶をしにきた人間らしい。しかし初対面の人間に対してこれほど喧嘩腰とは、人間の程度も知れそうな連中だ。
喧嘩していた二人の言葉でさらに苛立ちを覚えたが、事実であることは確かなので口をつぐんだ。
大の大人、しかも殺しに携わるような組織に所属する人間が、今更仲間の喧嘩ごときで「きゃーこわーい」なんて悲鳴をあげるわけもない。俺はそこらの一般人と同じであったので、良くも悪くも組織の雰囲気に染まっているのは当然のこととも言えた。

俺のことなど知らんと言わんばかりに睨み合いをしている二人にため息をつく。帰ってほしい。
不幸中の幸いか、喧嘩の最中に仕事は終わったため部屋に用はない。さっさと退室して、挨拶は明日や数日後にでも軽くしてもらうことにする。

カチャリ、僅かばかりの音を立てて施錠を確認する。重要なデータは金庫に入れるのが自分の癖だった。

「外」

鍵を見せつけるように揺らし、入り口に足を向ける。

「さっさと出ろ。椅子に縛り付けるぞ」

不定期に死なない程度の電流を流す特別製のものを用意してある。
指し示した先を見たあと、三人は黙って外に出た。


―――
――――
数ヶ月前は確かそんな様子だった。
お世辞にもお互いにいい印象を抱かなかっただろう初対面だったが、意外に三人とはうまくやっている。喧嘩していた二人は相変わらず犬猿の仲だ。

仕事上の関係としても、プライベートの関係としても、三人と俺はそれなりに相性がいいらしかった。よほどのものではない限り気楽に話せる人間がいるのは大変喜ばしいことである。
バーボン、ライ、スコッチと名乗った彼らは、やはりコードネームを持っているだけあってかなり優秀な部類の男どもだった。ある程度難易度の高い任務も易々とこなしてしまうのでいささかつまらない。何もないに越したことはないが。

「旭、飲みに行きません?ライのミスが多かったのでライの奢りですよ」

今日の分の仕事を終えて帰り支度をしていると、開け放たれた入り口にもたれかかっていたバーボンが食えない笑顔を浮かべていた。その後ろから見える黒い服は…話題に出たライだろう。
二人の隙間から顔を出したスコッチも、眉を八の字にしてはいるが、飲みは断らないつもりらしい。抑止力がいるのなら酒の付き合いくらいはいいだろう。

「お言葉に甘えて。一等高い酒を飲んでやる」

悪目立ちしそうなネックウォーマーをかぶってロングコートを羽織る。重要なものには鍵をかけた、あとは扉を閉めるだけだ。
ほどほどに頼む、久方ぶりに聞いたライの弱弱しい声にゆるむ頬を根性で抑え、ガチャリと仕事場のドアを閉じた。

全員が俺より年下だが、立場は俺が一番下だ。まったくちぐはぐな集団だと思う。

「そういや、旭って普段どんな酒飲んでるんだ?」
「普段、…強くないからな。酒には明るくないが、この前飲んだのは…桃の、あれだ」
「チューハイ?」
「さては一週間前の店だな?」
「ご名答だ、ライ」
「は?何ですか、二人で飲みに行ったんですか。ずるい」

僕がこの一か月禁酒してたっていうのに。
様子から見るにもう酒も飲めるようになったんだろうに、過去のことを今更根に持たれるのは納得がいかない。ついでにいえば一週間前はスコッチも誘っていたので三人だ。

ぎゃいぎゃいとうるさくなりそうなバーボンをなだめるスコッチの横でつぶやく。

「今日はブラックニッカが飲みたい」

それはジャパニーズの一種で安価だ、嘆きのような訴えがスコッチから漏れて、思わず俺とライは笑った。