空きっ腹に打撃
※会話文の後ろについているのは喋っている言葉を翻訳したものです
頂き物「駅長さんと出会った」の続きっぽいものになります
しばらくここに置いてもらえるらしい、それは大変嬉しいことと思えた。
ポケモンの世界だとわかっても、リオルという名前を知らないことから察せられるように、私はリオルの生息地をしらない。つまり言葉が全く通じず、ひたすら孤独に耐えなければならないのだ。
会話が成り立たなくては生きていくのにも大変な苦労をするわけで。
「●●」 ほら
今もまた、その大変な苦労をしているわけで。
目の前に出された茶色い固形の何か。一見コルクかと思ってしまうそれは、いわゆるポケモンフードと呼ばれるものではなかろうか。
もちろんのことながら、私はポケモンフードなんてものを食べたことがない。私の世界じゃポケモンは架空の生き物にすぎなかったわけで、当然ポケモンフードなんてものはなかったからだ。
目の前でそれを差し出してくる、ええと、確かそう、駅長さん。
その人は一向にフードを口にしない私をじっと見てくる。未知の食べ物に挑もうとするところで受けるその視線がいささか気まずい。
隣で元気にそれを食べているリオルがいるので、なおさら食べないことが不思議に思われているのかもしれない。それでも山のように積まれたフードをもりもりと食べていくリオルは少し食べすぎだと思う。
いつかは食べると思ったのだろう、駅長さんもご飯を食べるためか、少し離れたところにあるテーブルに向かう。
テーブルには彼が調理した料理が乗っているようで、おいしそうな匂いがこちらにも漂ってきていた。
私の保護で少しもめていたらしいノボリさんとクダリさん(名前は教えてもらった)も、コートと帽子を置いて仲良く駅長さんの料理をむさぼっている。ロボットも食事を取るのか。
ところで、なんでこんな家族団欒みたいな風景が広がっているんだろう。
『あの…ここって駅の中、ですよね。違ってましたっけ』
隣で頬をぱんぱんに膨らませたリオルに尋ねる。リオルはもごもごと口を動かしながら首を縦に横に忙しなく動かしている。
多分返答しようとしてくれてるんだろうけど、どっちだ。
『●●●●●●●!』 駅の中だよ!
私の頭の上で小さくフードを齧っていたバチュルが何か言葉を発するも、残念ながら意思伝達の機能が断たれているのでわからないままだ。リオルも頷くだけじゃわからないから喋って。
あとバチュル、食べかすを落とすのはやめてほしいです。ちょっとぽろぽろ落としてるのわかってるんですよ。
無言の訴えは当然伝わることなく、バチュルの落とした食べかすは私の頭を滑って地面にその身を叩きつける。あっ、私に用意された食べ物のお皿にも入った。
『むぐ…リオル、食べないの?食べないならもらっちゃうよ?』
ようやく口の中のものがなくなったのか、隣のリオルが私のお皿にも手を伸ばして食べ物をつかむ。瞬く間に減っていった食べ物はリオルの腹の中に収まっていく。
減ったというか、お皿の中は既に空っぽだ。私、一口も食べてなかったのに。
『●●●!●●●●●●●●●●●!』 ちょっと!僕のまで食べないでよ!
『ひーひゃんへふに』
それどころか、いつの間にか彼は頭の上で食べていたバチュルの分まで空にしている。
食い意地の張りすぎは良くないと思います。
結局何も食べ物が入らなかったお腹が虚しく鳴いている。確かに食べるのを躊躇ってたし、できることなら向こうで三人が食べているようなものが食べたいとは思ってたけど、これは流石に酷い。
喧嘩を始めた二人のそばから空の皿を回収し、なるべく被害を受けないように遠巻きにする。
喧嘩に夢中になっているのか、それとも単に力が強いと知っているからか、リオルは他のポケモンから食べ物を奪うことはしていない。私の場合は、…新入り、みたいなものだからかな。言っていて少し寂しくなる。
アットホームな雰囲気に未だ慣れないのは来たばかりだから仕方ない。言葉もリオルの喋ってるものしかよくわからないし。
どうにか伝達手段を見つけなくては、ここにも馴染むどころの話じゃないんだろうなと、わかってはいるんだけど。
「●●●●●●?」 食べ終わった?
どこにこの食器を置くべきかと棒立ちしていると、テーブルのところからロボットの片方が顔を出す。にっこり笑っているような口だから、多分クダリさん。
伸ばされた手にお皿を載せながら喧嘩をする二人を見やる。
バチュルがここで食事を取っているということは、つまりバチュル働いているわけだ。
もし一食抜くとなると少しつらいだろう、せめてバチュルの分はもう一度貰いたい。
伝わることを願いつつ、一人分のお皿を手にバチュルを指差す。
「●●●?」 バチュル?
反応を示したことを確認。もう一度お皿、次はリオルを指差し、最後に貪るリオルの真似をする。
「●●●、●●●、…●●●?」 お皿、リオル、…食べる?
何を言っているのかわからないけど伝わっていることを信じておこう。こういう時こそ主人公のように通じるものだと思って。
少し間を空けてもう一度同じ動作、そして次はバチュルが怒ったときの真似をした。
「…●●●●●●●●●●●●●●●●●?」 …リオルがバチュルのフードをとったのか?
わからない。確認がとれない。やってしまった。
誰かに助けをもらうために後ろを振り向くと、どうやらちょうど食べ終わったらしいポケモンの一人(名前が合っていればドリュウズさん)が話を聞いていたらしい。
ぎゃう、鳴き声と共に頷き、ドリュウズさんは私を鋭い爪で指し、お皿を指し、リオルを指し、そして貪るような動作を見せた。
もしかしてこのドリュウズさん、私の分も食べられたことを報告してくれているのか。
一通りの動作を見たクダリさんは、いつの間にか一緒にこちらを見ていた駅長さんにお皿を預け、未だいがみ合っているリオルとバチュルの間に入っていく。
そのあとすぐに放たれた拳骨と少し怒気を孕んだ声でちゃんと伝わっただろうことを悟った。一応心の中で合掌しておくが、どう見たってあれは自業自得だと思う。
ぼろぼろになったバチュルが半泣きでこちらにやってきて、ばちゅ、ばちゅ、と何かしらの言葉を訴えながら私の頭を登る。
至極どうでもいいけれど、バチュルの定位置が私の頭みたいになっているのが解せない。
私のお腹も小さく鳴き声をあげて存在を主張する。
恥ずかしいけれど止める方法もないし、止むまで待つしかないだろうな。仕事も何もできないし。
諦めの境地に至ろうとする私と涙で私の毛を濡らすバチュルの前に何かが差し出されたのはそのときだった。
「●●、●●●●●●●●●●●●」 ほら、何も無いよりマシだろう
ほかほかに温まった、シチューみたいなもの。どう食べるのかわからなかったのだろう、私には一緒にスプーンも差し出されている。
おそるおそる受け取り、勝手ながらもテーブルの空いた席に座った。美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐり空きっ腹を刺激する。フードがまずそうとは言わないけど、これは普通に美味しそうというか。
隣で熱いシチューに突っ込んでいったバチュルに倣い、私もスプーンを使ってその白い液体を口に運ぶことにした。
空きっ腹に打撃
(私のつくるものより美味しかった)