時には手を組むことも

「どうしましょう」
「うーん、どうしましょうね…」

看板の前で、僕とセヴリーヌさんは悩んでいた。
それはもう盛大に。周りの迷惑など気にすることなく、直面した問題に頭を抱えているといっても過言じゃない程度には迷っていた。

「二位の景品が欲しいんですよね」

ぽつり、欲に任せた一人言をこぼすと、それに呼応したように隣の人も言葉を口にする。一位の景品のほうが惹かれる、と。
ポケモンバトルによってもらえる景品が欲しいとお互いが考えているこの状況、どうにも問題解決の糸口が全く見えてこない。いや、解決する方法は至って簡単なわけだが、そこに行くまでの一歩が中々踏み出せないのだ。

シングルであれば一位と二位を独占すればいいだけのこのバトル大会、残念ながら今回はタッグバトルとなっている。つまりペアでエントリーしなくてはいけないわけで。
今回街に赴いたメンバーは僕とセヴリーヌさんの二人だけで、他に知り合いが居るわけじゃない。つまり、現状タッグを組むことができるのはお互いしかいないということだ。

タッグを組む場合、どちらかの景品を必ず諦めなくてはいけない。タッグバトルは苦手ではあるけれど、僕とセヴリーヌさんの実力であれば確実に諦めるのは二位の商品である。
しかし、とにかく僕は二位の景品が欲しいと思っている。けれどセヴリーヌさんの意見も尊重すべきなのは確かなわけで、つまり、この状況は僕の意地によって成り立ったものなのだ。

諦めたくないなら他人を誘えばいいのだが、一般人を巻き込んだタッグで勝ち進めるほどでもないだろうし、何よりお互い他人に話しかけることは得意としていない。完璧に詰んでいる。

観念すべきか、そう思って口を開きかけたところで、どこか聞き覚えのある声が自分を呼んだ。

「コトア?」

背後から聞こえたそれにのろのろと反応する。コトアという名前はどこにだって溢れているし、万が一自分を指していたところでいつも同じ対応をしているので特に問題はない。
そこにいたのは、僕の友人を経由して知り合った大人、もといアクラさんであった。

知り合いといっても、配送業者として働いている彼と、各地方をこれといった理由もなく飛び回る僕が出会う確率はかなり低い。最後に出会ったのも遠い記憶の彼方だ。相手はよく自分のことを覚えていたものだと思う。
一応知り合いであることは間違いないので軽く頭を下げる。セヴリーヌさんがアクラさんと知り合いかどうかなど、僕の名前だけが呼ばれた時点で察せられたためだ。

連れがいる状況で話し込むのは見ていて気持ちのいいものでもないだろう。相手も僕のほうに不用意に接近する素振りも見せず、軽く手を振って答えるだけに留めてくれる。
後で時間ができれば話そう。そのままアクラさんは、僕たちが見上げていた看板の前を通り過ぎようとして…――

「あーっ!!」
「え?…あっ!」

――できなかったらしい。
アクラさんの隣にいた人間が大声をあげ、こちらに近づいてくる。我関せずといった様子で看板を見上げていたセヴリーヌさんも、流石に大声には気づいたようで、近づいてきた人を見て盛大に顔を歪めた。

誰に対しても人のいい笑みを浮かべているセヴリーヌさんが、珍しい。そしてセヴリーヌさんにそんな顔をさせる人も充分珍しい。
一体どんな人だろうかと自分よりもはるかに高い身長を持つその人を見る。ぎょっとした表情をしていたアクラさんは何かを察したのか頭を抱えていた。

「こんなところで何やってんだよ、クソ女」
「そちらこそ、随分と珍しい場所にいらっしゃいますね。砂漠の暑さに頭が沸騰でもしましたか?」
「は?雪に囲まれてカッチコチに固まった脳みそよりマシだっつの」

随分と物騒な軽口である。相手の口も悪いし、それに触発されたかなんだかもわからないが、セヴリーヌさんも言葉の限りを尽くして相手に反論している。というか罵倒らしき言葉も聞こえてきている。

なんだ、犬猿の仲か。
自分に害がないので特にそれ以上の感想が浮かぶことはなく、連れを追いかけてだろう、こちらにやってきたアクラさんを特に抵抗するわけでもなく受け入れた。