見込みのある少年
数年ぶりにきたホウエン地方にサザンカは驚きを隠せない。
自分が最後にこの地へきたのも10年も前だ。
カイナシティの船着場へ降り立った瞬間感じた懐かしさも吹き飛んでしまった。
「これはまた……随分大きく変わったわね……」
キンセツシティの入口に立ちその建物を見上げる。
今はキンセツヒルズという建物全体が町となっていた。
大きな変化を遂げていた町を呆然と見上げていると、パートナーのゲンガーであるゲルトがいつものように、勝手にボールから出てきた。
「あっゲルト!」
≪ボク探検してくるー!≫
いつも好奇心旺盛なゲルトに苦労する。
初めてきた町では、ほぼ必ず勝手にボールから出て探検しようとする。
いい子なのだが少し頭が痛い。
とりあえずその小さな紫の体を追いかけた。
* * *
走ったのに追いつけないのは、さすが素早さが高いポケモンである。
キンセツヒルズの階段を駆け上がり見えたのは緑の生える屋上。
どうやらここは公園のような役割を兼ねているのだろう。
ふと目に入るのはベンチに座る小さな紫の体、ゲルトだ。そしてすぐ隣には赤を基準とした黒のラインが入っている服の少年。
あの子にゲルトは迷惑をかけてしまったのか、それとも本来のゲンガーより小さいので珍しく思われたのか。
「ゲルト、その子に何か迷惑をかけたの?」
≪あ、サザンカ。違うよ、シズクはボクのこと迷子だと思ったみたい≫
「…このゲンガー、あなたのポケモンですか?」
「えぇ、ごめんなさいね。この子、キンセツについた途端ボールから出て行っちゃったから」
「自由奔放なんですね……」
じっとゲルトを見つめる少年は興味深そうに観察している。
ゲルトの話ではシズクと言ったか。
ホウエンじゃゲンガーの進化系統は生息していない上に、小さいから当然珍しく感じるわよね。
「あたし、サザンカっていうの。キミの名前は?」
ゲルトが言ったのでわかってはいるが、聞いてみる。
水色の髪を揺らしながら顔をこちらへ向けた彼はシズクと名乗った。
よいしょっとしゃがみこんでいた体を立ち上げた少年は、腰に下げたモンスターボールを取りこちらへ向ける。
「サザンカさん、ポケモントレーナーですよね?視線が合えばポケモンバトルって言うじゃないですか。俺と、ぜひバトルしてください」
会って数分でバトルをしてほしいという少年。
あたしは全然構わないのだが、結構唐突だ。
「構わないけど……どうして?」
「ゲンガーを見て思ったんです、よく育てられてるなって」
あぁ、だからあんなにじっくりと見ていたのか。納得だ。
だからといってそれがバトルをするという理由にはならないが別にいいか。
なんたってあたしはポケモンバトルが好きだから。
「……いいわ、ポケモンバトルしましょう。ただ、ここじゃ危ないからそうね…117番道路へ行きましょうか?」
スっと西に広がる花畑のある道路を指差した。
* * *
「ちょっとこの後用事があるから、1対1。それでいいかしら!」
「俺は全然!手、抜かないでくださいよ!」
「当たり前じゃない。じゃあ、あたしは……ウォーレン!」
「うぉっ初めてみるポケモン……!ひこうタイプ…だよな?いけっエポナ!」
サザンカが出したポケモンはひこう・ノーマルタイプのウォーグル。
ホウエン地方には生息していないポケモンだ。
そしてシズクが出したのはエポナと呼ばれたグラエナ。しっかりと育てられているようだ。
先手必勝。すぐさまウォーレンに指示を出す。
「ブレイククロー!」
ウォーレンの鋭い爪先がエポナを捉えるが、ギリギリのところで避けられる。
中々にすばしっこいグラエナらしい。
「エポナ、とおぼえからのこおりのキバ!」
数歩下がったエポナが大きな声を上げた。
遠吠えにより攻撃のステータスが上がったエポナはすぐさま走り出し、地を蹴る。
冷気を漂わせたギラリと光る牙が、ウォーレンの翼に噛み付いた。
悲痛と呼べる鳴き声を上げ翼をはためかせエポナを地面へと叩き落としたウォーレン。
ひこうタイプにこおりタイプの技は効果抜群である。
よりにもよって大事な翼に噛み付かれたウォーレンは怒ったようだ。
「あぁ、もう後でオボンの実あげるから…ウォーレン、いわなだれ!」
空からエポナに降り注ぐたくさんの岩。そして追い打ちにブレイブバード。
たくさんの岩に埋もれ、身動きのとれなくなったエポナに容赦なくブレイブバードをお見舞いしたウォーレンはいつもより加減をしていない気がする。
いわなだれからの威力の高いブレイブバードをモロで食らったエポナは目を回して瀕死で倒れた。
「つ、強い……ハッ、エポナ!」
エポナに駆け寄ったシズクは岩に埋もれたエポナを助け出す。
反面、サザンカはそばに降り立ったウォーレンを小突きつつも、カバンからオボンのみを取り出し食べさせる。また再度カバンを探り、出したのはまんたんのくすり。
救出されたエポナに使ってあげると、エポナはゆっくりとだが立ち上がり元気を取り戻した。
「エポナ、大丈夫か?」
心配そうに手を差し伸べたシズクだったが、エポナは唸り声を上げてその手に噛み付こうとする。だがシズクは間一髪で慣れたように手を引っ込めた。
「その子懐いてる…わよね」
「あぁ、いつものことなんで……」
いつもって……まぁ大丈夫そうなので触れないでおこう。
さて、これからハジツゲタウンに向かわなければ。
久しぶりに会う従姉妹の様子を見なければならない。家にいればいいのだが。
お互いのポケモンをボールに戻す。
シズクはその時サザンカの左手の人差し指に嵌められた指輪が目に入った。
「サザンカさん、これから用事があるんですよね?」
「えぇ。ハジツゲタウンにちょっとね。シズクはこれからどこに?」
「ヒマワキジムに挑戦しにいきます」
「じゃあ、ここでお別れか……」
ヒマワキジムはひこうタイプのジムだ。ちょうどあたしが出したウォーグルと同じタイプ。
「あの、その指輪ってなんですか?」
「ん?これ?」
あたしが嵌めている指輪といえば、プラターヌに託されたメガリング。
ポケモンをメガシンカさせるために必要なキーストーンがついている指輪だ。
特別時間が押している、というわけでもないのだが、何故だろう。秘密にしたくなった。
またこの子とは会えそうな気がする。だから、
「秘密」
「えーっ……そこで秘密ですか…」
「また会えたら教えてあげるわ。……いや、もしかすると次会うまでにわかるかもしれないわね。それじゃあ、私はもう行くわ」
そう言いキンセツの方へ戻る。ハジツゲタウンはキンセツシティの北、砂漠を超え火山灰の降る113番どうろを抜けた先だ。
ウォーレンに乗って空を飛びたいところだが、生憎この子とホウエンにきたのは初めてだから任せて飛べない。
ふと背後から大きな声で呼ばれ足を止める。
「サザンカさーーん!バトルありがとうございましたー!」
手を振るシズクに同じように手を振って返す。
また会える日を楽しみにしながら。
2015.02/11