迷子少年と作家

ニュースでホウエン地方で伝説のポケモン、グラードンとカイオーガが復活し天候が荒れ放題になっているという内容を聞いてからいてもたっても居られず、すぐさまカロス地方からホウエン地方まで飛んだのだが、当然そんな大事件ほうっておけば世界が滅びかねないわけで。自分がホウエンに着いたその時には、事件は解決した後だった。当然カロス地方とホウエン地方はかなり離れているから、その間に勇敢な誰かしらがグラードンとカイオーガを鎮めるはずだ。
仕事柄、こういう出来事を文章に書き起こし出版するので、すぐ現場付近で聞き込みをしたりするのだが、それも終わりなかなか来ることのないホウエン地方を満喫しているに至る。


「シズク、ねぇ……勇敢な少年、チャンピオン候補、さて彼には直接話を聞けるか…」


万年筆をクルクルと回し、トントンとおデコを啄く。なんでもルネシティのジムリーダーやホウエンリーグのチャンピオンも現場にいたらしいが、そんな有名人にアポなしで話を聞けるわけでもない。
注文したコーヒーに砂糖を入れて、かき混ぜてくれるフラべべのカペラを見て、カルミアの眉間に寄っていた皺が和らいだ。


「あの…」

「ん?」


突然声をかけられ、声のした方を向く。子供特有の高い声、そこにはニンフィアを連れた少年がいた。


「なんだお前さん」

「えっと…その、」


見知らぬ少年に声をかけられたものの、その少年はなかなか話を切り出さない。
自分自身、客観的に見ても嫌なヤツだと思うことだが、特に親しくない人間とはあまり関わりたくないと思う。もちろん、聞き込みや打ち合わせではそうとは思わない。まあ、つまりハッキリ言ってしまえば、今この状況にイライラしている。


「一体なにが…「ぼ、僕、迷子になっちゃって!」……迷子?」


思わず呆れた声が出た。


「おじさん、一緒にお母さんを探してもらえませんか…?」


恐る恐る、俺の機嫌を損ねないようにか、そう聞いてきた。そこまで顔に出てしまっていただろうか。それか雰囲気でか。
ここでこの少年を放って次の場所に行くなんて非道な真似をしてしまうのも、なんだか癪に触る。迷子になったなら母親も探しているだろうし、ジュンサーさんの所に連れていけば、そのまま任せれる。


「仕方ない。迷子少年、ついてこい」

「あっありがとうございます!」


聞いてみるとこの少年、カルミアと同じくカロス地方から旅行でやってきたらしい。確かになかなか見ることのできないニンフィアを連れているし、ホウエンで見るような顔立ちではなかった。
少年もただの旅行というわけでもなく、母親のサイホーンレースについてきたようだ。


「おじさんもカロスの人だったんですね」

「あぁ。俺は作家をやっていてな、まあ、そうだなァ…お前くらいだと、もしかすると俺の書いた絵本を読んでるかもしれん」

「絵本書いてるんですか!?」

「書いてると言っても絵でなく、物語を考えて文章を書いてるだけだぞ」

「でも、すごいです」


ニンフィアを抱える小さな少年は、キラキラと尊敬とも取れるような眼差しをしていた。

その後無事、ジュンサーさんの元へ連れていき、幸いなことにそこには迷子少年の母親がいたので届けることができた。少年は母親にこっ酷く怒られ凹んでいたが、カペラに頭を撫でられ元気を取り戻した。


「さて…カペラ、そろそろ行くぞ」


少年と戯れていたカペラを呼び戻し、ポケモンセンターへの道を行こうとする。すると、コートの裾を引っ張られた。…既視感を感じるな。


「あの!僕はコトアって言います。おじさんの名前、教えてくれますか?」

「カルミアだ」

「カルミア…さん」

「覚えてればまた会えるだろうさ。じゃあな、迷子少年」


ヒラヒラと手を振るカルミア。
段々遠くなっていく大きな背中を、コトアは見えなくなるまで見つめていた。

2015.11/25