その日のことを彼は知らない
カルロスがおかしくなったのは13歳のころだった。
ちょうど夏休みが終わり、彼が新しく3年生になったあたりから、周りは彼に違和感を抱くようになったという。
そのことを本人に告げたのは一体誰であったか。
言われれば誰しもいい感情を抱かないであろう「おかしくなった」「変になった」という言葉を告げた猛者の顔を、カルロスは覚えていなかった。
告げられたのはほんの一週間ほど前の出来事で、いまだ周りはその事件を気にして遠巻きに彼を見つめているというのに、本人はどこ吹く風といったようにいつも通りに羽ペンを動かしていた。
おかしくなったという表現は、カルロスの弊害とはなりえなかった。彼は自らを象徴するだけのものに価値を見出そうとせず、他人からどういう評価をもらおうともへっちゃらであった。
彼は、カルロスは、自分の興味があることにしか記憶を割こうとはしなかった。カルロスの世界はある意味一人で完成していたのだ。
"おかしくなった"原因は誰も知らない。かつて交友していた人間も、夏休みを共に過ごした家族も、当の本人でさえも、誰一人としてそのきっかけを知らなかった。
昔は確かに普通だった彼は、おかしくなったと同時にほとんど全ての知識を過去に置き去りにしてしまった。家族は覚えているらしかったが、友人の名前はまったく口から転がり出ることなく、授業に使う基礎知識の質問も何一つ答えられなかった。
かつて、カルロスは確かにただの子供だったという。
寮の中では優秀でなかった、友人が周りと比べて少なかった。彼はそれを事実として受け止め、少し物足りなさそうに毎日を過ごしていただけの魔法使いだった。何がどうしてそうなったのか、誰にもわかるはずがなかった。
昔は豊かだった表情も、今ではほとんど笑顔に固まってしまっている。記憶をなくした影響か、どこかよそよそしくなった態度に、かつての友人のほとんどはカルロスから離れていった。
それでも彼は気にした素振りを見せなかった。唯一表情を変えたのは、実験に失敗して涙をこぼしたときくらいだった。
毎日少しずつ孤立していくカルロスは、今日も変わらず本を片手に羽ペンを握っている。