司会の方のアナウンスが聞こえたので、お義母さんに航平を預けた。幸い、今日はよく眠っている。中座のお供の間くらいなら、なんとかなるだろう。
「中座のお相手は、新婦名前さんのお兄様ご夫妻です!」
立ち上がって、俊平と2人で名前ちゃんを迎え入れた。名前ちゃんと目が合って微笑むと、にっこりと笑顔を返してくれる。
昔3人で遊んだあの日のように名前ちゃんを真ん中にして、披露宴会場をゆっくり歩いた。
「新婦のお兄様ご夫妻は、名前さんが子どもの頃からたくさん遊んでもらって、第2の両親と思うほど、大好きなお兄さん・お姉さんだったとのことです。
いつも面倒見が良く優しいお兄さんの俊平さん。子どもの頃からの憧れのお姉さんで、本当のお姉さんになってくれたらいいなといつも願っていた名前さん。お2人がご結婚されてからは、自分も結婚したらこんな夫婦になりたいなと夢を抱いていたとのことです。」
照れたように、横の名前ちゃんが笑った。
あの頃は、こんな未来があるとは全く思っていなかった。ただのクラスメイトと、クラスメイトの妹と遊びに行った、ただそれだけだと思っていたのに。
私と真田くんとの関係は恋人になり、夫婦になった。名前ちゃんは妹になり、少しずつ大人になっていった。そして、こうして嫁に行くのを見守る立場になるとは、当時は全く思ってなかったなぁ。
美しく成長した横顔に、ほろりと一粒涙が落ちた。
「それでは、新婦名前さん、お兄様ご夫妻と一緒に中座させていただきます!」
司会の人の言葉の後に、3人で会場に向かってお辞儀をした。
開いたドアから、退場する。
「も〜、名前ちゃんったらいきなり泣くからびっくりしちゃったよ…。」
「ごめんごめん、名前ちゃんが大きく美人になったから、なんだか感動しちゃって。」
「もう!泣く理由がお兄ちゃんと一緒なんですけど!」
夫婦ったら、そんなところも似るの?と笑う。
名前ちゃんはもう泣かずに、今度は私をぎゅっと抱き寄せた。
「幸せになるんだよ、名前ちゃん。」
「うん、ありがとう名前ちゃん。」
「もしつらいことがあったらいつでもうちに逃げておいでね…。」
「あはは、1度もそんなことがないように頑張る!」
中座ありがとう!と言うと、お色直しのために彼女は控室へと戻っていった。
その背中を俊平と2人で見送る。なんだか、私たちの役目が1つ、ここで終わったような実感があった。
「さ、披露宴会場に戻ろう?祥平と航平、いい子にしてるといいんだけど。」
「あー、悪ぃ、名前先戻ってて。ちょっと用事があって。」
歯切れの悪い俊平の返事に首を傾げながら、そう?じゃあお先に…と席へ戻る。
お義母さんから航平を受け取ると、変わらずぐっすり眠っていて、今日は随分いい子だと感心する。俊平の横に座っている祥平も、きっと大人向けの披露宴はつまらないだろうに借りてきた猫を被ったままじっとしていて、だんだん子どもたちもお兄さんになってきているのだと嬉しいような、寂しいような気持ちになった。
私の役目は、そうと気づかないうちに1つずつこっそり終えていっているものなのかもしれない。
俊平は、新郎の中座の後に戻ってきた。
遅かったね、と声をかける。
「あぁ、ちょっとあいつに話したいことがあってな。」
運ばれていた料理を口にしながら、なんて事ないように答えた。
「話したいこと?」
「あぁ、ちゃんと妹を幸せにしてやれるのかってこととか。最後はがっつり握手と抱擁で終わったぜ!」
ニカっと、初めて会った頃と変わらない笑顔で話す夫に、頭をかかえた。
いつまでたっても、彼はシスコンなお兄ちゃんらしい。
「名前を守る役目は、今日でいったんあいつに受け渡しだな。」
「これから!ずっとよ!」
新たな道を行く若い夫婦に、たくさんの幸があらんことを。
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