むかしむかし、あるところで

俊平、妹よ。
母からそう言われながら差し出された"いきもの"を、そっと下から支えた日のことを俺は一生忘れないと思う。

真っ赤な顔、ふにゃふにゃと動く両手両足。
先ほどまで産声をあげていたそれは、ひとしきり泣いておちついたのか、くりくりとした瞳で俺の顔を見上げている。
今何かの拍子に腕の力が抜けてしまったら、この小さな命は床に叩きつけられ、そうしたらきっとすぐに散ってしまうだろう。何があっても落とさないようにしなければ、と支える腕に力が入った。

そんな俺を見て、母は赤ちゃんはこうやって抱くのよ、と優しく教えてくれた。首の下に片方の腕をいれて、もう片側は尻から背中へ。
まだぎこちない手つきに、母と父が和やかに笑う。釣られたように、彼女の顔もほころんだ。

ああ、俺ずっと弟だったら良かったのにって思ってたけど。
一緒にキャッチボールしたいなって言ってたけど、前言撤回。
妹、めっちゃ可愛い。
もしかしたら、世界で一番可愛いかもしれない。

自分でも驚くほど、顔が緩むのを感じた。
あらあら、俊平はいいお兄ちゃんになりそうね。
久しぶりの育児、俊平にもたくさん手伝ってもらわないとな。
両親がおだてる声がどこか遠くに聞こえるほど、彼女の綻んだ笑顔の可愛さに見とれてしまっていた。

一瞬で俺を魅了した彼女は、その小さな口からあくびを一つ零して、さも満足したというような表情で眠りについた。

これが、真田 俊平…つまり俺と、後に名前と名付けられた11歳年下の妹との運命的な初対面のひとコマである。
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